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醜いアヒルの子は、白鳥になれるのか?  作者: 梨香
第一章  醜いアヒルの子
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12  メイドはクビ?

 サリンジャー師は精霊が見えなくなる方法を知りたいと言うジュリアを、どう説得したら良いのかと言葉に詰まった。ベーカーヒル伯爵は、ジュリアが自分の身に起こった変化を理解していないのだと溜め息をつく。


「精霊を見る能力は持ちたいと願っても、なかなか得ることはできないのだ。まして、サリンジャー師が自ら弟子として教えたいと仰っているのだよ」


 ルーファス王子に叱られて、小さくなっているジュリアに、セドリックは優しく話しかける。ハンサムな若様に説得されると、ジュリアは少し話を聞いても良いかもと緊張を解く。


「あのう、精霊使いとは何ですか?」


 根本からわかって無いのだと、セドリックはやれやれとサリンジャー師に説明を任せる。


「ジュリアは精霊を見ることができるでしょ?」


 コクンと頷くのを確認して、サリンジャー師は初歩の初歩から説明し始めた。


「その精霊にお願いして、雨を降らしたり、物を遠くに届けて貰ったり、火を起こして貰ったりできるのですよ。でも、精霊に自分の意志を聞いて貰う為には、修行して精神を鍛えなくてはいけません」


 ジュリアは見ることはできても、精霊に頼みごとなど聞いて貰ったことは無かったのて、精霊使いとは便利な能力だと頷いた。


 ルーファス王子とセドリックは、精霊使いの初歩的な説明を呆れて聞いていた。イオニア王国が豊かだったのは、精霊使い達が多くの精霊を使っていたからだ。


『ジュリアは精霊使いの重要性を理解していない。サリンジャー師はジュリアをイオニア王国の内乱をおさめる為に利用するつもりなのか?』


 精霊使いの師匠としてはサリンジャー師を信頼しているが、ルーファス王子とセドリックは貴重な精霊使いを易々と他国に奪われるのは御免だと考えた。


「あのう、精霊使いの修行は何年ぐらいかかるのでしょう?」


 やっと前向きな質問がジュリアから発せられて、サリンジャー師は喜ぶ。


「人にもよるけど、ジュリアほど魔力が強ければ、5年も修行すれば……」


 見る見るうちにジュリアが悄げていくので、サリンジャー師は言葉を止めた。


「5年も修行しなきゃいけないだなんて、無理だわ……それに、修行する為のお月謝も払えません」


 サリンジャー師は、意味不明な言葉に困惑する。ベーカーヒル伯爵はギルドの親方について修行する時に、入門料とか月謝とかを払う習慣があるのを思い出した。

 

「ジュリア、精霊使いになるのに入門料や月謝はいらない」


 伯爵の言葉にジュリアはホッとしたが、もじもじしながら質問する。


「あのう、メイドしながら修行できるのでしょうか? 」


 ルーファス王子は、何を考えているのか! と、怒鳴りつけたくなったが、セドリックに目で制される。


「ジュリア、メイドなどしなくていいんだ」


 サリンジャー師は自分が引き取って育てるつもりで、親切心からそう言った。しかし、ジュリアは真っ青になる。


「ええっ! メイドはクビなのですか? 困ります! お給金を貰ったら、お母ちゃんや妹に何か買ってあげたいと思ってるのに……お屋敷をクビになったら、食べていけない!」


 泣きべそをかきながら、ベーカーヒル伯爵にクビにしないで下さいと頭を下げるジュリアに、全員が驚き戸惑う。


「ケインズ夫人を呼んで来なさい」


 自分に説得は無理だと感じたベーカーヒル伯爵は、執事に女中頭を連れて来させる。応接室で、ベーカーヒル伯爵にクビにしないで下さいと、ぺこぺこ頭を下げているジュリアと、周りの人達の困惑し切った表情で、何となく事情を察した。


「ケインズ夫人、サリンジャー師はジュリアを弟子にしたいと仰っている。精霊使いは貴重な存在なので、ぜひ修行をしなくてはいけない。しかし、本人はメイドを続けたいので、断ると言い張っているのだ」


 ベーカーヒル伯爵は、ジュリアがイオニア王国のゲチスバーモンド伯爵の孫娘かもしれないという話を、簡単に説明した。


「だが、ゲチスバーモンド伯爵がジュリアを孫と認めないかもしれない。その時は、私が後見人としてジュリアを精霊使いになるまで、保護するつもりだ」


 ベーカーヒル伯爵は、貴重な精霊使いをイオニア王国に渡したくないと考える。


「では、ジュリアの扱いは如何したら良いのでしょう?」


 女中頭として一番大事なのは、召使い達の混乱を防ぐことだ。


「ジュリアは、我が家の客人となる」


 他国とはいえ伯爵令嬢なのだから、召使い部屋には住まされないと、ベーカーヒル伯爵は答える。


「私がジュリアを引き取って、修行させたいと考えているのですが……」


 サリンジャー師の言葉に、ケインズ夫人は「ご結婚されているのですか?」と質問する。


「結婚されてない殿方でも、一家を構えておられるなら、ジュリアを引き取ることは可能でしょうが……」


 亡命したルキアス王国で、ルーファス王子の精霊使いの師匠として王宮の離れに住んでいるサリンジャー師は、これから屋敷を探しますと提案したが、ケインズ夫人は難しい顔をした。


「まだ幼いジュリアさんには、監督する夫人が必要です。ジュリアさんはこの屋敷に住む方が良いでしょう。シルビア様と同じく、家庭教師のミリアム先生の監督下で勉強する必要もあるのでは?」


 サリンジャー師はメイドのジュリアには、精霊使いとしての修行だけでなく、一般教養も必要なので頷いた。


「それは有り難いですが……本人が……」


 シルビアお嬢様と一緒に勉強と聞いて、ジュリアはぶるぶると震え出す。


「そんなことは無理です! ケインズ夫人、私は精霊使いにならなくても良いです。メイドとして働かないと、困るのです」


 ケインズ夫人は、ジュリアが育ててくれた両親に仕送りをしたいのだと察した。


「ジュリアさん、貴女の気持ちは理解できますが、伯爵様は精霊使いになることをお望みなのです。伯爵様、精霊使いになれば、経済的に自立できるのですよね。その前払いとして、メイドの給金をジュリアさんに与えて下さいませんか?」


 やはり、ケインズ夫人を呼んで正解だったと、ベーカーヒル伯爵はホッとする。


「でも、働かないのに給金をいただくわけにはいかないし……」と、戸惑うジュリアに、精霊使いになったら返して貰うと伯爵は強引に話を決める。


「アナスタシアとシルビアに、この件を伝えなくては。それと、家庭教師のミリアム先生には、ケインズ夫人から伝えてくれ」


 精霊使いとしての修行は、後ほどサリンジャー師と相談することにして、メイドとしてではなく、ベーカーヒル伯爵家の客人としてジュリアを住まわせる手配をケインズ夫人に任せた。

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