第88話 挨拶
出血が酷かったためか、燃は仰向けになって目を閉じている。
「お・・・おい燃!?」
「大丈夫です・・・死んではいません。」
光太郎が呼びかけると目をつむりながら燃がそう言った。
「そうか・・・・・・で?こいつはどうする?」
肩から腰まで大きく切られて倒れている妖を示しながら光太郎が言った。
「殺しておきましょう・・・こいつ、かなり厄介で・・・げほっ、ごほっ・・・」
「大丈夫か?」
燃が苦しそうに咳き込むと光太郎が心配して近づいてきた。
「俺のことはいいですから・・・早く止めを・・・」
「わかった。」
そういって光太郎は妖の方に振り向き、ナイフを振り上げた。
そのまま何の躊躇も無く、振り下ろした。
しかしそのナイフは妖には届かず途中で止まった。
「なにっ!?」
光太郎がそう言うのと同時に光太郎の体が宙に舞った。
「がはっ!!」
光太郎が教室のドアに叩きつけられ、扉が壊される。
「よう燃。久しぶりだなあ?」
妖の前に人が立っている。
その人は燃がよく知っている人物であった。
「健・・・一・・・?」
燃は一瞬、目を疑う。
そこに居たのは前のように黒い髪と黒い瞳を持つ健一ではなかったのだ。
髪は白く染まり、瞳は紅色に変色していた。
「ああ、そうだ。安心しろ。今回はこいつを回収しがてら挨拶に来ただけだ。」
健一は妖を横に抱えながら言った。
「挨拶・・・だと?」
「ああ。近々戦うことになるだろ?だからその前に挨拶を、と思ってな。」
にやりと笑いながら健一がそう言った。
「じゃあ、こっちからも挨拶を返さねえとな・・・!!」
いつの間にか起き上がっていた光太郎がそう言ってから目にも留まらぬスピードで健一の体をナイフで切った。
しかし健一の体を切っている途中でナイフはとまってしまった。
体が硬すぎて切れないのだ。
「なっ!?」
健一は無言のまま腕をつかみ光太郎の腹に拳を捻り込んだ。
「がっ!!」
普通ならそのまま吹き飛んでしまうほどの拳だ。
光太郎はそのままその場でうずくまった。
「手荒な挨拶をどうも。お?他の仲間が来たみたいだな。じゃあ、俺はこれで帰るぜ。まあ、すぐに会うことになるだろうがな。」
そう言って健一は背中から黒い翼を生やして窓から飛び立った。
「すぐに会う・・・か・・・」
そう言って燃はそのまま目を閉じた。