第86話 危険
燃の腕には妖の髪の一束が刺さり血が流れ出ている。
おそらくリンを衝撃波で吹き飛ばしたため、美穂に襲い掛かっていた妖の攻撃が受けきれなかったのだろう。
「で?何だあれは?」
その紙を腕を振るっては落としてから、妖を示しながら燃が言った。
「妖みたいだけど、ちょっと特殊みたい。」
起き上がりながらリンは燃に言った。
「特殊?」
片眉を上げて燃が訊く。
「そうなの。私も攻撃したんだけどね。当たってるのにまるでそこに実体が無いかのように通り抜けちゃうの。」
美穂が燃の後ろから口をはさんだ。
「まさに幽霊ってわけか・・・」
そう言いながら燃はその妖を見る。
ゆっくりとこちらに歩み寄ってきている。
突然、暗闇から良平と光太郎が現れる。
「妖の気配がしたんだが・・・」
光太郎が辺りを見回す。
「ああ、あいつです。」
指でその妖を燃が指しながら言った。
「うっ・・・おい、あれって幽霊じゃ・・・」
怯えるようにして良平が言った。
「頼むからそういうことを言わないでくれ。俺も怖くなる。」
真剣な顔で燃が言った。
この二人はやはり幽霊などが苦手なようだ。
「まあ、とりあえずみんなであいつを叩けばいいんだろ?」
余裕の笑みで光太郎が言った。
みんながその意見に頷く。
だが、
「ちょっと待ってください。」
燃が光太郎に向かって真剣な顔でそう言った。
皆が燃に注目する。
「何だ?何かあるのか?」
光太郎が振り返りながら言った。
「はい。今回は俺一人で行かせてください。」
「・・・・・・何?」
眉にしわを寄せながら光太郎が言った。
「お前・・・それじゃあ、俺達が何のために修行してきたのか・・・」
分からない、と言おうとした瞬間、燃が力が抜けたように肩膝をつく。
「げほっ、ごほっ・・・!!」
そして咳とともに血を吐き出した。
「おい、燃!?どうした!?」
光太郎があわてて近寄る。
他のみんなも急いで近寄ろうとする。
だが、途中で妖の攻撃がみんなを襲う。
「当たっちゃダメだ!!みんな全力で避けろ!!」
血を吐きながら燃が叫ぶ。
返事を返す暇は無いがその言葉は全員に伝わったようで全員反撃する気配もなしに妖の攻撃を避ける。
「おい燃、大丈夫なのか?」
燃の隣に来た良平が言った。
「さあな・・・それより敵の攻撃に備えろ。おそらく奴は・・・」
燃がその先を言おうとした瞬間、妖は不気味な笑みを浮かべながら突然幽霊のように姿を消した。
「!?・・・まずい・・・!!」
何かに気づいたのか、燃は突然走り出した。
「お・・・おい!!燃!?」
良平があわてて後を追うが、追いつかない。