第79話 集中
「おはよう・・・」
美穂は眠たそうに目をこすりながら小屋の外に出てきた。
「おう。」
「やあ。」
光太郎と燃はそれぞれ美穂に挨拶をし、すぐにお互いに向き合った。
それぞれ手には竹刀をもっている。
「男同士で見詰め合って何してるの?」
光太郎の隣に行ってから、美穂が光太郎に聞く。
「ああ、これはだな・・・」
光太郎が一瞬、燃から気を逸らした瞬間、燃の竹刀が光太郎の頭に直撃した。
「ごはっ!!」
変な声をあげて光太郎が倒れた。
「こういうこと。」
光太郎から飛びずさって間合いを取ってから、燃が美穂に向かってそう言った。
「あの・・・いまいち良く分からないんだけど・・・」
二人を交互に見ながら美穂が言った。
頭を抑えながら光太郎が立ち上がる。
「つまりは・・・」
燃が何かを言おうとした瞬間、
「はあっ!!」
掛け声と共に燃の頭目掛けて竹刀を振るった。
燃がそれをサイドステップで避ける。
しかし反撃をせずにそのまま竹刀を構えたままだ。
戦いにおいて相手が攻撃した直後が一番隙が多いはずである。
光太郎はそのまま2・3歩下がる。
「要するにだな・・・」
そう言って光太郎が説明しようと美穂のほうへ振り返った瞬間、
「隙あり!!」
燃が光太郎の頭に一撃を打ち込んだ。
「ぐはっ!!」
光太郎が後ろに倒れこむ。
相当痛そうだ。
「ま・・・待て燃。このままじゃ話が進まん。ここは一旦、中断しよう。」
燃に手のひらを見せながら光太郎が言った。
「分かりました。」
そう言って燃は集中を切った。
「・・・・・・で?何がどうなっているの?」
呆れた顔で美穂が二人に訊く。
「つまりは、お互いの集中力を鍛えてたんだよ。」
燃が説明をする。
「集中力?」
美穂はまだ分からないようだ。
「ああ。一発勝負で相手の隙が見えた瞬間に打ち込む。それが防がれればまたお互いに同じ位置に戻って構える。入ればその打ち込んだ方の勝ちだな。」
頷いてから燃は詳しく説明をした。
「私もやっていい?」
興味津々の目をしながら、美穂が言った。
「もちろんだ。これも修行の一環だからな。」
そう言って燃は竹刀を美穂に渡した。
美穂が光太郎のいる方向に竹刀を向ける。
光太郎も同じく竹刀を構えた。
「じゃあ、始め。」
そう言うと燃はその場に座り込んだ。
お互い見つめあったまま動かない。
1分ほど経った頃、燃はいつの間に持ってきたのかお茶を呑み始めた。
辺りにお茶のにおいが広がる。
3分ほど経つと今度はご飯を持ち出し、そこにお茶を注ぎ込んだ。
「ずず〜」
美味しそうな音を立てながら燃はお茶漬けを食べ始めた。
「隙あり!!」
そう言って光太郎が美穂に無って竹刀を振るう。
「いたっ!!」
その一撃は見事に美穂の頭を捕らえ、美穂は後ろにひっくり返った。
「ヒュウヒュウヒハイハハハ。」
口に入っているご飯が熱いのか、燃が何を言っているのか分からない。
「隣でお茶漬けなんて食べないでよ!!そのせいで集中が切れちゃったんでしょ!!」
美穂が怒りながらそう言った。
「ほへは・・・・ごほっ!!げほっ!!」
気管に入ったらしく、燃は途中でむせこみ光太郎を指差した。
代わりに説明してくれとの事だろう。
「はあ・・・一見馬鹿に見えるんだがな・・・これも修行の一環なんだ。」
呆れたようにため息をついてから光太郎は説明を始めた。
「お茶漬けを食べることが・・・?」
美穂は不満そうだ。
「いや・・・お茶漬けはどうかと思うが・・・とりあえずどこでどんな状況でも集中する。それがこの修行の名目だからな。それで燃は俺たちの気をそらすようなことをやっていた・・・と言っておこう。」
光太郎は自信なさ気に説明した。
「そう言うことだ。」
燃はすっくと立ち上がりそう言った。
「・・・・・・あっそう・・・」
美穂は適当に流した。
「じゃあ、光太郎さん。もう一回勝負。」
そう言って美穂は光太郎に竹刀を向けた。
「ああ、そうだな。」
再び光太郎も構えた。
「フッ・・・任せておけ。」
そう言って燃はお茶漬けを構えた。
「「構えんでいい!!」」
二人の怒声が一気に燃を襲った。