第76話 苦しみ
「はあっ・・・はあっ・・・はあっ!!」
仰向けに倒れている良平が荒く息をする。
「どうしたの?もう終わり?」
リンは良平を見下ろしながらそう言った。
やはり先読みの出来ない相手は辛いのだろうか。
良平の体にはあちこちにあざが出来ている。
「ち・・・ちょっと休憩・・・もう・・・限界だ・・・」
息が切れているため、良平は途切れ途切れに言った。
「はあ・・・」
リンはため息をついて良平の隣に座った。
「大分上達してきてはいるよ。だけどこのペースで燃の修行に追いつけるかどうか・・・」
「なっ!?どういう意味だよ?」
良平にとってリンの言葉は心外だったのだろう。
「どういう意味もそのままの意味だよ。このままじゃ美穂ちゃんたちの修行に追いつけない。君だけ弱くなっちゃうよ。」
「こんなに死ぬ気でやっているのにか?」
その言葉を聞き、リンは大きくため息をついた。
「向こうは『死ぬ気』じゃないの。本当に命を落とすかもしれないの。」
「なにっ!?」
良平は勢い良く起き上がった。
「どういうことだよ?」
真剣な顔で良平が訊く。
「それだけ燃の修行が厳しいって事。ああ見えて燃って厳しいんだから。」
思い出すようにリンが言った。
「・・・・・・そうか。じゃあ、こんな所で休んではいられないな。・・・よしっ。再開しよう。」
立ち上がりながら良平が言った。
「うん。」
笑顔でリンも立ち上がる。
燃が美穂に向かって衝撃波を放つ。
美穂はそれを両手で受けようとするが、受けきれずに弾き飛ばされてしまう。
「かはっ!!」
数メートル吹き飛び美穂が近くにあった木に激突する。
間髪入れずに燃は衝撃波を連続で三発放つ。
「くっ・・・!!」
美穂は再び手を前に掲げ、受け止めようとする。
一つ目が美穂の手に当たり、衝撃が美穂の腕を襲う。
さらに二つ目が当たり、次に三つ目が美穂の腕に当たる。
後ろに木がその衝撃に耐え切れなくなり、真っ二つに折れ、美穂は後ろに倒れた。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
美穂が仰向けに倒れたまま激しく息をする。
目を開けた瞬間、美穂は急いで手を上に掲げようとする。
空中にはエネルギーを手の平に纏った燃の姿があったのだ。
しかしさすがに限界が来たのか、美穂の腕は美穂の命令に反して動かない。
燃はそのまま衝撃波を放たずに地面に着地した。
「何が悪かったのか・・・分かるかい?」
美穂に歩み寄りながら言った。
美穂は首を横に振る。
「気を手にばかり回していただろう?それじゃあ、足の踏ん張りが利かなくなって吹き飛んじゃうのも当たり前だ。」
そう言って燃は近くにあったペットボトルを美穂に向かって投げる。
それを美穂は受け取らずにペットボトルはそのまま地面に落ちた。
否、受け取らなかったのではなく、手が上がらずに受け取れなかったのだ。
「はあ・・・」
燃は大きくため息をつくと自分で投げたペットボトルを再び取りに行き、美穂の近くに座った。
「ほら、口開けて。」
そう言って燃はペットボトルのキャップをはずした。
美穂はしばらく躊躇った後、言われたとおりに口を開けた。
燃はそこに水を流し込み、美穂に飲ませる。
「・・・・・・っはあ・・・はあ・・・もう・・・いいよ。あり・・・がとう。」
そう言いながら美穂は起き上がった。
ようやく喋れるようになったのだろう。
「よし・・・今日はここまでだ。どうせ、このままやっても腕が上がらないだろう?」
美穂の腕を見ながら燃が言う。
「うん・・・そうするよ・・・」
よろよろと立ち上がり、小屋に向かって歩きながら美穂はそう言った。
「光太郎さんもそうしてください。」
草むらに向かって燃がそう言った。
その草むらから、全身ボロボロの光太郎が這って出てきた。
「大分、参ってますね・・・」
その姿を見た燃が苦笑いをしながら言った。
「ああ・・・かなりな・・・」
そう言って光太郎はそこで倒れた。