第73話 実力
「じゃあ、まずは許容量の限界まで気を収束してくれ。」
燃は近くにある手ごろな岩に腰をかけながら言った。
「限界って・・・そんなことしたら皮膚が裂けちゃうんじゃないの?」
美穂は燃の腕を見ながら言った。
「ああ。確かに限界を超えれば裂けるだろうな。だからゆっくりと慎重にやれ。もしもとなったら俺が吸収するから君が傷つくことはないよ。」
「吸収って何?」
美穂はその言葉に引っかかったのか、燃に訊いた。
「・・・もともと気功っていうのは周りにある気を収束して戦うものだ。」
面倒くさそうに燃は頭を掻きながら説明を始めた。
「だけどこの気を無くしてしまうとどうなるか分かるか?」
「え?え〜っと・・・収束・・・出来なくなる・・・かな?」
美穂が自信なさ気に答える。
「その通り。君と戦った時、俺は君に収束を先行されて気を収束できなくなっていた。まあ、正確に言うと手加減をして気の収束を出来なくなっていた。」
「手加減・・・?」
美穂が怪訝な顔をした。
甘く見られていたのかと思ったのだろう。
「別に君を甘く見ていたからというわけじゃないよ。エネルギーの使い手って言うのは限界がなくてね。収束しようと思えばいつまででも収束できちゃうんだ。加減しなければこの身が滅ぶまで集め続けちゃうんだ。」
燃は言い訳をするように言った。
「・・・成る程・・・」
どうやら美穂は納得したようだ。
「で、この前の戦いでは君がその限界を超えようとしたから、俺が君の周りにある気を全部奪ったって訳だ。だから安心して収束して良いよ。」
「安心してって・・・そうしたら燃さんがまた怪我しちゃうじゃん。そんな事出来ないよ。」
首を横に振りながら美穂が言った。
「そうだな。俺もできるだけ傷つきたくないから上手く収束してくれ。いいか?限界のギリギリまで収束するんだぞ?」
「無理だよ・・・自信ないよ。」
美穂がうつむく。
「あのさあ・・・・・・君はさっき『絶対に習得してみせる』って言っただろう?それは嘘だったのか?」
「嘘じゃないよ!嘘じゃないけど・・・でも・・・」
一瞬顔をあげ、美穂は再びうつむいた。
「俺のことは考えるな。今は自分のことだけ考えておけ。・・・・・・って、なぁんで君はこんなに俺にくさい言葉ばかりを吐かせるかねえ・・・もう止めだ。こんな暗い話はあんまり好きじゃない。さあ、もう何も考えないで早く収束しろ。」
燃は指で美穂を指しながら言った。
「でも・・・・・・」
「でもじゃない。いいかい?俺は君たちに命をかけて戦う仕事を手伝ってもらってる身なんだ。だから俺も命をかける・・・とまではいかないけど体を張って君たちの特訓の手伝いをしたいんだ。分かるかい?」
美穂の言葉を途中で遮り、燃は説得を再び始める。
「・・・・・・」
俯いたまま美穂は黙り込んだ。
「・・・・・・」
燃も黙って美穂を見つめる。
「だけど・・・」
美穂が何か言おうとするのを燃が手を美穂の目の前に掲げて静止させる。
「もういい。君がそこまで言うのなら仕方ない。」
そう言って燃は立てかけてあった美穂の大剣を手に取り、美穂の前に投げた。
「これは・・・!?」
驚いた顔の美穂が顔を燃に向ける。
「剣を取れ。なるべく穏便にいきたかったけど、仕方ない。今の君の実力を教えてやるよ。」
本気の顔をした燃が拳を美穂に向ける。
「正直、今まともに戦えるのは光太郎さんだけだ。このままでは君と良平は全く戦えない。」
「でもこの前は戦えてたよ!!」
美穂が思わず声を荒げる。
「修学旅行のときのことか?あれがあいつの本気に見えたのか君は!?あの時あいつは君たちで楽しんでいただけなんだよ!!」
「!!」
美穂がショックを受けたような顔になる。
「次にあいつが来た時、健一は本気だ。そうなったら君たちは一捻りだ。」
「ちょっと待ってよ!!そんな事やってみなきゃ分からないじゃん!!」
「だから、今から本気状態じゃない俺と戦ってどこまで戦えるのか見せてやる。」
そう言って燃はエネルギーを体中から放出する。
辺りには燃の赤いオーラとともに暴風が吹き荒れる。
「くっ!!」
美穂は反射で剣を掴み、地面に刺した。
燃と自分の間に壁を作ったのだ。
その直後、美穂の背中に強い衝撃が走る。
「かはっ!!」
大きく吹き飛んだ美穂はそのまま転がった。
「どうした?構えないと死ぬぞ。。」
美穂が自分のいた場所を見ると、そこには赤いオーラを纏った燃の姿があった。
「・・・・・・」
美穂は危険を察知し、立ち上がって剣を構えた。