第66話 侵入者
燃の周りにある草はまるで塩を撒いたかのように枯れている。
「ほら、大丈夫か?」
そう言って燃は力が抜けて座り込んでいる美穂に手を差し伸べた。
「え?・・・あ・・・うん。」
美穂は混乱しているのか訳がわからないまま燃の手を頼りに立ち上がった。
「よう。終わったみたいだな。」
見ると目の前に良平がいた。
良平がしばらく辺りを見回す。
「一体、何をやったんだ?」
燃に視線を移して良平が訊いた。
「ああ、それはだな・・・」
燃が話そうとした瞬間、リンが燃の腕を掴み、上に挙げさせた。
その腕からは血が滴り落ちている。
「またこんな無茶して!!」
「いででででで!!ちょっと、お前!!余計ひどくなるって!」
リンがすごい力で燃の腕を掴んでいたので燃は耐え切れなくなり、急いで振り解いた。
「おい燃、何だその傷?」
良平が燃の腕を見て驚いた顔をして言った。
「ああ、これか?これはな・・・」
そう言いながら燃が袖をまくる。
「パンクだ。」
燃の腕にはまるで陶磁器にひびが入ったような傷があり、そこから血があふれ出ている。
「パンク・・・?」
いまいち表現が分からないようだ。
「まあ、そんなことはどうでも良いだろう?それよりもこの学校に入ってからずっと違和感があったんだけど、何かあったのか?」
そう言って燃が辺りを見回す。
しかし特に変わったところはない。
「別に何にも無さそうだけどな・・・」
良平が頭を掻きながら言った。
「多分それは僕のせいだと思うよ?」
俊平が口を開いた。
「俊平さんが・・・?」
燃は振り返り俊平を見た。
「ああ、ちょっと学校に侵入者がいてね。だから学校全体に結界を張らしてもらったんだ。侵入者からは普通の学校にしか見えていないはずだよ。つまりはこの僕達のいる学校の空間を別の次元に移動させたんだよ。」
「侵入者って?」
その言葉が気になり、燃が訊く。
「え〜っと・・・ほら、昨日の昼に君が話していた娘だよ。」
思い出す様にして、俊平が言った。
「あいつか・・・」
すぐに燃は石田由香里の顔が思い浮かんだ。
「で?今どこに?」
頭を抱えながら燃が言った。
「校舎の中にいるよ。誰かを探しているみたいだね。」
じっと燃を見ながら俊平が言った。
おそらく感づいているのだろう。
「ちょっと待ってて下さい。話をつけてきます。」
そう言って燃は自分の顔を倉田信吾の顔に変形させ、校舎の中に入っていった。