第62話 燃vs良平 2
燃は腰を思い切り落とし、奇妙な突きの構えを取った。
「何だ?」
こんな構えは見たことがない、良平はそんな気持ちを込めてそう言った。
「行くぞ。」
そう言った瞬間、燃は地面を蹴った。
一直線に良平の方向へ突っ込んでいく。
良平は先読みしてその突きをあらかじめ避けた。
しかし燃は途中で地面に足をつけ、突然態勢を変える。
「何っ!?」
良平は急いで燃の次の行動を予測する。
横凪が来ると思ったときにはもう遅く、燃の木刀が迫っていた。
「くっ!!」
木刀の一撃を小さな木刀で受けるのは衝撃が大きかったのだろう。
良平が小さく怯む。
しかし態勢は崩れることなく、そのまま持ちこたえた。
「もう一丁!!」
そう言って燃はもう一度右手を振るった。
だが、今度は良平はしっかりと予測し、燃の木刀が届かない距離まで下がった。
しかし木刀は燃の手を離れ、避けた良平を追跡した。
燃は木刀を振るったのではなく、投げたのだ。
「ちっ!!」
良平は舌打ちしがらも回転している木刀の中心をしっかりと見据え、叩き落した。
木刀が地に落ちると思われた瞬間、燃の足が木刀と地面の間に入り、良平に向かって蹴り上げた。
「ぐっ!!」
反応が遅れた良平は木刀で受けるのは間に合わず、仕方なく腕で防御した。
腕に激痛が走ったが、良平はそれを我慢し、再び燃の方向に向き直ろうとした。
だが、そこには燃がいない。
「こっちだよ。」
周りを見ていると、下からそんな声が聞こえた。
声のした方向を見るとそこには思い切り態勢を低くした燃が良平の目の前にいた。
燃はその態勢から良平に向かって体当たりをした。
「がはっ!!」
おそらく良平は掌底か何かだと考えたのだろう。
まともに体当たりを受けた良平はたまらず吹き飛び、転がる。
「くそ・・・」
良平が起き上がったときにはすでに燃は立っていた。
「何なんだ、その動きは?」
今までの燃の奇妙な動きを見て良平が思わず聞いた。
良平が生きてきた中でこのような動きを見たことがないのだろう。
「あ?・・・ああ、これは師匠の動きでな。」
「師匠?」
「師匠ってのは・・・ほら、写真に写ってた小さい女の子だよ。」
良平が分からない雰囲気を漂わしていたので燃が説明した。
「ああ・・・あの子か・・・確か元エネルギーの使い手継承者の・・・?」
思い出すようにして良平が言った。
「そうそう。師匠が良く使ってた動きでさ。俺もよくやられたよ・・・」
懐かしむような、しかし物悲しげな顔で燃が言った。
「まあ、とりあえずその話はまた後で聞く。今は戦おうぜ。」
そう言って良平は戦闘態勢に入った。
「あ、そのことだけどさ・・・」
燃が手のひらを見せ、ひらひらと横に振りながら言った。
「何だ?」
良平が訊く。
「もう終わりなんだ。」
そう言って燃は左手で持っていた良平の皿を見せた。
「なっ!?」
良平が驚いた顔になる。
「さっき体当たりしたときに盗ったんだよ。」
燃はそう言ってその皿を握りつぶした。