第61話 燃vs良平 1
夜の学校、昨日と変わらぬ風景。
変わっているのは立っているのが光太郎ではないということだけだ。
「よう、やっと来たか。」
良平が腕を組みながら言う。
「じゃ、さっさと始めようぜ。」
そう言って良平はポケットから光太郎と同じくらいの大きさの木刀を取り出した。
「ああ。そうだな。」
燃も木刀を構え気を体全体に纏った。
その瞬間、良平は持っている木刀を燃に向かって投げつけた。
「なっ!?」
燃は一瞬驚いたが、それを冷静に木刀で弾いた。
良平に視線を戻すが、すでにそこには良平の姿がない。
気配を感じ、燃が咄嗟に上を見るとそこには弾かれた木刀を受け取った良平がいた。
「くっ!!」
木刀で攻撃を受けるには間に合わないと判断し、燃は横に倒れるようにして転がった。
しかし良平はそれを予測していたのか、そのまま何もせずに地面に降り、踵落しを燃に向かって放った。
燃は皿の前で腕をクロスさせてそれを防御し、そのまま押し上げた。
良平はバランスを崩し、後ろに三歩ほど下げる。
その隙に燃は立ち上がり、態勢を立て直した。
「ふう・・・なかなかの不意打ちをしてくれるじゃないか。だが、今度はこっちの番だ!!」
そう言って燃が木刀を横凪に振るう。
しかし良平は燃が木刀を振るう前に一歩下がり、それを避ける。
「なっ!?」
燃は驚いて咄嗟にバク転したが、良平はその行動を読んでいたかのようにバク転している途中の燃の背中を蹴った。
「おわっ!!」
突然の攻撃に燃は無抵抗のまま転がった。
咄嗟に皿を見るが、どうやら割れていないようだ。
「お前・・・すごいな・・・正直・・・驚いたよ。」
燃は息を切らしながらそう言った。
「だろう?」
対して良平は全く息を切らしていなかった。
見たところ、誰もが燃の戦況が不利だと思うだろう。
「何なんだ?あの速さは。光太郎さんの速さとは質そのものが違うぞ?」
燃は良平の動きに違和感を感じていた。
特別速くないのに速い。
そんな感じがしたのだ。
「先読みだよ。」
良平がにやりと笑いながら言った。
「先読み・・・?」
どうやらしっくりこない様だ。
「ああ、次に相手はどんな行動をとるか、こう攻撃したら相手はどう避けるか、そんなことを予測して行動してるんだよ。」
「・・・・・・なるほど・・・」
だから燃が行動する前に避けていたのだ。
「じゃあ、これなら・・・どうだ!!」
そう言って燃は良平の皿目掛けて突きを放った。
突きは剣筋の中で一番早い。
これならば先読みは出来ないだろう。
燃はそう思い、突きを放った。
「ガン!!」
そんな音がして燃の突きが止められる。
「なっ!?」
思わず驚いた顔をして燃はそう言った。
燃の木刀の切っ先は良平の木刀の切っ先によって止められている。
つまり燃の突きを良平は同じ突きで相殺したのだ。
燃は1メートルほど飛び下がる。
「あんまり先読みを甘く見ないほうが良いぜ。」
にやりと笑いながら良平がそう言った。
「そうみたいだな・・・普通の戦い方じゃあ、勝ち目はないな。」
そう言って燃は構えを解いた。