第58話 燃vs光太郎 2
燃は辺りの気を収束し、自分の体に纏わせた。
「行きますよ?」
木刀を強く握り締め、燃がそう言った。
「ああ、来い!!」
光太郎がそう叫んだ瞬間に燃は地面をけり、一気に光太郎との間合いを詰めて木刀を振るった。
その攻撃は光太郎のバックステップによって避けられてしまうが、燃はそのまま勢いを殺さずに回転して再び木刀を振るう。
光太郎は最初の攻撃で反撃に転じようとしたため、2回目の攻撃に反応が遅れてしまう。
木刀が光太郎の皿に当たって皿が割れると思われた寸前、光太郎の姿が一瞬にしてなくなった。
「なっ!?」
燃が思わず声をあげる。
「どこ見ている?後ろだぞ?」
後ろから声を感じ取り、燃は急いでふりかえった。
すでに光太郎は燃の皿に向かって木刀を振るっていた。
「くっ!!」
その攻撃を燃は後ろにわざと転んで避けた。
光太郎は攻撃を止めずに続けて仰向けに倒れている燃に踏みつける形で蹴りを繰り出す。
燃は横に転がりながらそれをかわし、反動をつけて勢い良く立ち上がった。
「はあ・・・はあ・・・前に戦ったときは・・・こんなに速くなかったはずですけど・・・?」
息切れをしながら燃が訊く。
「はは・・・そりゃあ、あの時は・・・本気を出してなかったからな・・・」
光太郎もなぜか疲れているようだ。
「・・・・・・さっきの瞬間移動みたいな技はそんなに多用できないみたいですね・・・?」
光太郎が疲れている様子を見て燃が言った。
「・・・だからどうした?そんなのお前の皿を割っちまえばこっちのもんだ。」
そう言って光太郎が再び構える。
燃は光太郎が攻撃を仕掛ける前に木刀を振るった。
光太郎が目の前から消えると同時に燃は木刀を途中で止め、逆方向に振るった。
その木刀の狙いは正確だったのだが、またもや木刀は光太郎に触れることはなく、空振りをする。
そこで燃は左足を思い切り後ろに蹴り上げる。
これもまた狙いは良かったのだが、光太郎のスピードによって避けられてしまう。
そのまま燃は勢いを殺さずに木刀を後ろに向かって横凪に振るった後、思い切り腰をひねりながら柄で後ろに突きを繰り出した。
その突きは光太郎の皿を正確に捉え、皿を粉々に砕いた。
「くっ!!はあっ!!はあ!はあ・・・」
その時点で光太郎は仰向けに倒れ、苦しそうに呼吸をした。
相当体力を使ったのだろう。
「やっぱりすげえな・・・お前。」
光太郎は笑いながら言う。
「いえ、途中で光太郎さんの癖が分かったので・・・」
「癖・・・?」
光太郎が意外そうな顔をして言った。
「はい。光太郎さんは高速移動をするときに、いつも後ろにまわる癖があったんですよ。まあ、あくまで予測だったので掛けだったんですけどね。」
「・・・なるほど。確かにそうかもな。・・・俺の負けだ、燃。」
光太郎はそう言って木刀を投げた。
「いや〜さすがだな。師匠を倒すとは・・・」
そう言いながら良平が拍手をしながら近づいてきた。
「いや・・・今のは完璧に運だな。正直負けてもおかしくなかった。」
疲れたように燃が言う。
「まあまあ、そんなことはどうでも良いじゃないか。それより明日は俺だからよろしくな。俺も本気で行くから覚悟しとけよ?」
良平は燃を指で指しながらそう言った。
「・・・・・・後二回、耐えられるかな・・・?」
燃は真っ暗な夜空を見上げながら、疲れたようにそう言った。