第54話 感想
行きはうるさかったバスの中、今はバスの走る音しか聞こえない。
皆疲れて寝てしまっているのだ。
しかしその中で起きているものも居た。
「ったく、俺だけに押し付けるなんてお前もなかなか酷いよな。」
文句をいいながら良平が燃を睨みつける。
「もういいじゃないか。それ何回目だよ・・・」
呆れた目で良平を見ながら燃が言った。
「いや、あの後マジックとるの大変だったんだからな。顔の皮が剥がれるかと思ったぜ・・・」
そう言って良平が自分の頬をさする。
相当強くこすったのだろう。
まだかすかに赤い。
「水でやるからだろ?アルコールかなんか使えばよかったのに・・・」
「・・・・・・もっと早く言ってくれよ・・・」
ショックを受けたように良平が肩を落とした。
「しょうが無いだろ?今気付いたんだから・・・」
そう言って燃は窓の外に目をやった。
「そういえば、お前どうだったよ?今回。」
「は?」
燃が突然の質問に思わず良平の方を振り返る。
「『は?』じゃねえ。修学旅行だ。学生の普通の修学旅行はどうだったよ?」
「普通かどうかって・・・お前、あれが普通なのか・・・?」
色々と思い出しながら燃が言う。
「話し逸らすなって。どうだったのかって訊いてんだよ。」
良平が燃の顔をじっと見る。
「何でそんな事訊くんだよ?」
怪訝な顔で燃が訊く。
「楽しかったろ?」
笑顔で良平が言う。
「え?・・・あ・・・いや・・・」
燃が思わず戸惑う。
「楽しかったんだろ?」
良平が燃に迫る。
「うっ・・・えっと・・・・・・まあ、そうだな・・・面白かったな、意外と。」
そう言うと再び燃は窓の外を見た。
照れくさいのだろう、頬がかすかに赤く染まっている。
「なあに照れちゃってるのかなあ?倉田君よお?」
秋葉原竜太の姿をしたリンが、前の座席から乗り出しながらそう言った。
「なっ!?り・・・じゃなくて、いや・・・いいのか。竜太、寝不足で寝てたんじゃなかったのか!?」
燃は驚いた顔でリンを見ながら言った。
「当たり前だろう?SBクラスの奴らが二日や三日の徹夜で参るわけがないっての。・・・なあ!!みんな!?」
リンがそう言って辺りを見回す。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「おう!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
その瞬間、一斉に皆が起きてそう言った。
「なっ!?何で?は?あれ?」
訳がわからなくなり、燃が混乱している。
「いやあ〜、やっとお前もこのクラスに打ち解けたな!!」
クラスメイトの一人が言う。
「ホントだよ!!お前だけが打ち解けてなかったもんな!!」
他のクラスメイトがそれに同意してそう言った。
「全く苦労させやがって!!」
他のクラスメイトも腕を組んで頷きながらそう言った。
「なっ!?ちょっと待てって!!筋が良く分からないんだが・・・」
燃はそう言って良平に視線を向ける。
「まっ、要は皆お前の感想が聞きたかったんだよ。実は修学旅行中にお前をクラスに溶け込ませる作戦を立てててな。」
にやりと笑いながら良平が言った。
燃はその言葉を聞いて、振り向き、リンを睨んだ。
リンは口で『後で』と示すと自分の席に戻った。