第53話 恐い
喧騒が止んだあと、部屋の扉がゆっくりと開かれた。
「・・・・・・終ったか・・・?」
燃がそう呟きながら部屋に入ってきた。
部屋を見ると辺りは散らかり、明らかに激しく暴れ回った跡がある。
その風景の中に顔中落書きをされ、気を失っている良平の姿があった。
美穂は油性のマジックを筆箱の中にしまっている途中だった。
「よ・・・よう。」
そう言って燃は部屋の中に入った。
「あ、燃さん。おはよう。すがすがしい朝だね。」
美穂はにっこりと微笑んだ。
「あ・・・ああ、そうだな・・・はは。」
苦笑いをしながら燃が答える。
「お兄ちゃんが私がお化け屋敷に無理やり連れ込んだからとか言って私の顔に落書きしようとしたんだよ?酷いと思わない?」
燃が良平を見ていると美穂がそれに気付いたのかそう言った。
「哀れな・・・」
燃は良平を見て手を前で合わせながら言った。
「それにしてもお兄ちゃんが恐がりなのは知ってたけど、燃さんまで恐がりだったなんてね。意外だよ。」
「恐いものは恐いんだから仕方ないだろ?」
肩をすくめながら燃が言った。
「妖とどこが違うの?良くそれで退治できてたね・・・」
呆れた目で美穂が燃を見る。
「良く分からないんだが、とにかく恐いんだ。」
悪戯で良平の腹の上に枕を積み重ねながら、そう言った。
「夜の学校とかどうしてるの?恐いんじゃない?」
「ああ。だから中には入らない。中に入るときはリンに任している。」
「・・・・・・自分で情けないって思わない?」
冷たい視線で燃を見つめる。
「うっ・・・ま・・・まあ、この話はこれでお終いにしよう。それより、今日帰るんだろ?準備しとかなきゃな。」
燃は逃げるようにして荷物をまとめ始めた。
「そうだね。じゃあ、お兄ちゃんも起こさなきゃ。」
燃の様子を見てくすくすと笑いながら美穂がそう言った。