第52話 仕返し
修学旅行5日目の朝、二人の男がほぼ同時に目覚めた。
「よう、良平。昨日は良く眠れたか?」
燃は目の下に大きなくまを作りながら良平に訊いた。
「いや、あの曲がり角の辺りで出てきたお化けに追いまわされた夢を見て何回も起きた。」
同じく良平も目の下に大きなくまを作っている。
「ああ・・・そこも恐かったよな・・・俺はあのドアを開けたときに出てきた奴がな・・・」
そのときのことを思い出したのか、燃は体を震わせてから言った。
「確かに・・・あれも恐かったよな・・・」
「お前が俺の手を掴むから、あんなことになったんだぞ。」
燃はそう言って良平をにらみつけた。
「いや待て。俺のせいじゃない。全ての元凶は・・・」
二人はベットですやすやと気持ち良さそうに寝ている美穂を見た。
良平は黙ってベットに近づいて行った。
「なあ燃。お前マジックかなんか持ってないか?」
にやりと笑いながら良平が言った。
「おお。丁度いいことに油性のマジックがあるぞ?」
同じく燃もにやりと笑いながら言った。
燃はそれを良平に渡した。
良平がマジックで美穂の顔に落書きをしようとした瞬間、美穂の目がゆっくりと開かれた。
「お兄ちゃん、何してるの・・・?」
こめかみに怒りマークを浮かべながら、美穂が言った。
「あ・・・いや、これは燃にやれって言われて・・・・なあ、燃?って、ああ!!居ねえ!!」
友人に押し付けようと良平が頬の筋肉をひきつけながら振り返ると、そこには既にその友人は居なくなっていたのだ。
「あ・・・ま・・・待て、美穂。も・・・もとはといえばお前が悪いんだ。お前が俺たちを・・・お化け屋敷なんかに・・・連れ込むから・・・」
良平の声は恐怖によって徐々に元気がなくなっていき、それと比例して顔が青ざめていった。
「ふーん。だから?」
妹のきつい一言。
「だ・・・だから、ぼ・・・暴力はよくないぞ・・・?」
良平は後ずさりを始める。
「確かに暴力はよくないよね。」
そう言って美穂がベットから降りて立ち上がる。
「そ・・・そうだ。俺は聞き分けのいい妹を持って幸せだぞ。」
ホッとしたように良平はそう言った。
「でも、それはマジックが水性だったときの話。これ油性だよね?」
美穂は指を鳴らし始めた。
「ま・・・待ってくれ・・・」
「問答無用!!」
そう言って美穂が飛び掛った。