第41話 やり取り
「お前らに一つ連絡がある。金田と渡邉、それから中原は昨日親戚が危篤だとかで帰った。だから今日は居ないぞ。」
皆は先生の話もろくに聞かずにそれぞれ友達と大声で喋っていた。
先生もこんなにも重要な連絡を生徒に聞こえるはずのない声で喋っている。
「良平・・・お前あんな理由にしたのかよ。」
呆れたように燃が言った。
「ああ、でも先生も納得してくれたぞ。」
「・・・あの先生は・・・」
燃が頭を抱える。
「まあ、良いじゃないか。こっちとしても好都合だ。」
良平は気楽にそう言うと、燃の首に腕を回した。
「そんなことより、もっと修学旅行を楽しまないか?」
ちらりと良平の顔を見ると何かをしでかしそうな顔をしている。
「はあ・・・あのなあ、俺は姿を隠すために地味で居なくちゃいけないんだ。何かしでかすのは出来るだけ控えたい・・・そのこと分かってるか?」
「おう!任せて置け!」
そう言って良平は胸をはった。
「で?何をしでかすつもりだ?」
分かっていないだろうなあ、と思いつつ燃は聞いてみた。
「ふっ・・・ただのナンパだよ、ナンパ。」
良平は手をひらひらさせながら言った。
「ナンパか・・・まあ、そのぐらいなら付き合ってやらんでもないが・・・」
悩みながら燃はそう言った。
「おっと、お前はそのままの格好じゃ駄目だぞ。ちゃんと素顔で来ないと。」
良平は燃を指で指しながら言った。
「そうか・・・って、はあ!?素顔!?」
燃はそう言った後にしまったと言わんばかりに口を手で塞いだ。
周りを見ると皆燃に注目して居る。
声が大きすぎたのだ。
皆はしばらくするとまた自分達の話題に戻った。
「お前、素顔って・・・いいか?もう一回だけ言うぞ。俺は、姿を隠さなきゃいけないんだ。分かったか?」
呆れたように燃は言った。
「大丈夫だって。まだお前のことはまだ発表されてないんだし、もしもとなったら俺がカバーしてやるって。」
「それでも顔をさらすのはあまりよくない。」
「お前、結構器量が良いから絶対上手くいくと思うんだよな・・・」
良平は燃の言葉を無視し、首を縦に振りながら言った。
「おい、人の話を無視すんなって!無理だって言ってるだろ!」
良平の肩をゆすりながら燃は言った。
「まあまあ、俺を信用しろって。」
「だ〜か〜ら〜、そういう問題じゃないって。」
燃はイライラしながら言った。
「無理だよ。お兄ちゃんにそういうやり取りで勝てる人はいないから。」
後ろの座席から声がした。
「そうか・・・って、ええ!?お前、何でこんなところに・・・?」
そこに居たのは本を読んでいる黒田美穂であった。
「あれ?気づかなかった?私クラスメートだよ。名前は谷川美穂だけど。」
美穂は本から燃に視線を移していった。
「そうだったのか・・・そういえば居たかもな。」
思い出す様に燃が言った。
「と、言うわけだ。よろしくな。倉田君。」
良平はそう言って燃の肩を叩いた。
「どういう訳だって・・・無理だって言ってるだろ。」
疲れてきたのか燃は元気が無さそうにいった。
このやり取りがバスが移動している間、ずっと続き、結局燃が折れた。