第36話 黒田良平
健一は右手を剣にして戦闘の構えを取った。
「ん?ちょっと待てよ・・・お前、確か荒木燃に右手を消されてなかったか?」
良平は健一の右手を見て言った。
「俺は妖の体を無限大に持ってるんだぜ?手を再生させるくらい出来て当たり前だろ?」
構えてままの健一はにやりと笑って良平の問いに答えた。
「なるほど・・・」
良平も納得したように頷きながら、戦闘の構えを取った。
何も言わずに健一は地面を蹴り、良平に向かって突きを繰り出した。
突然、健一の視界から良平の姿が消え、健一が突きの途中で止まる。
健一は何か気配を感じたのか、いきなり倒れるようにして思い切り腰をひねりながら背中を逸らした。
後ろから先程まで健一の居たところをナイフが過ぎ去った。
「ちっ、さすがに見切られたか・・・」
ナイフの飛んできた方向から良平の声がする。
「速いな・・・」
後ろを向きながら健一が感心したように言った。
「まあな。」
良平がそう言った途端、良平の残像だけが残り、再び健一の視界から消えた。
健一は慌てず、しっかりと気配を感じ取り、剣にした右手で良平のナイフを叩き落した。
しかし健一がナイフを叩き落したときにはもう既に良平は健一の背後に回っており、健一の背中にナイフを突き刺した。
「くっ・・・」
顔をしかめた健一は振り向きざまに剣を横凪に振るった。
そこには良平は居なく、少し離れたところで間合いを取っていた。
「どうした?健一君。君の実力はこんなものなのかい?」
良平はにやりと笑いながら言った。
「ふっ・・・そんなわけないだろう。」
健一はそう言って足手と手を恐竜の手足のような形にした。
「へえ・・・」
良平は興味深そうに健一の手足を見ている。
突然、良平の妹の美穂が良平の隣にすっ飛んできた。
「いったあ!!」
美穂は頭を打ったのか、痛そうに頭を抑えている。
「おいおい・・・大丈夫かよ・・・」
呆れたように見ている良平は美穂を助け起こしながらそう言った。
「だってあの人強いんだもん。」
助け起こしてもらった美穂はまだ痛むのか涙目でそう言った。
二人がそのようなやり取りをしていると、二つの刃がそれぞれを襲った。
「「くっ!!」」
良平はナイフで、美穂は大剣でそれぞれの攻撃を受けた。
二人はそれぞれ別方向に転がり、窮地を脱出する。
「戦っている最中にあんまり喋るもんじゃないぜ。」
恐竜のようにした右手で良平を引き裂こうとしながら健一が言った。
「くっ!!速い!」
良平はそれらをギリギリのところでかわしながら少しずつ後ろに下がっている。
しばらくすると何かが良平のわき腹にすごい勢いでぶつかってきた。
「がっ!!」
良平の体はくの字に曲がり、3メートルほど吹き飛んだ。
苦しそうに健一の居る方向を見ると、鞭のような尾を生やした健一が立っている。
「おまえ・・・それは・・・?」
相当苦しいのか、良平は途切れ途切れに言った。
「だから何べんも言っているだろう?俺は妖だって。」
健一はにやりと笑いながらそう言った。