第34話 限界
洋子の髪は白くなり、瞳が赤く染まっていた。
「洋子に何をした、健一!!」
燃は怒りで肩を震わせながら言った。
「なあに、ちょっとこっちの味方になってもらっただけだ。大したことじゃない。」
健一はそう言って空になった注射器を取り出す。
洋子は後ろで一つに結んであった髪を解き、健一のほうを向いた。
洋子と目が合った健一はにやりと笑いながら、口を開いた。
「洋子、とりあえずそいつが邪魔だから、お前の力試しにそいつを殺してみろ。」
怒りで肩を震わしている燃を指で指しながら、健一は洋子に向かって言った。
「了解。」
簡潔にそう答えた洋子は燃の方を向いた。
「健一!!」
そう叫んだ燃は地を蹴って健一に向かって突っ込んで行った。
燃はエネルギーで刀身3メートル、太さ40センチほどの巨大な剣を作り出し、健一の目の前でそれを振り上げた。
「はああああああ!!」
気合の声とともに燃は何のためらいもなく巨大な剣を健一めがけて振り下ろした。
しかしその剣は健一まで届くことはなく、健一の目の前で長さは約2メートル、太さは10センチほどしかない細長い剣によって止められていた。
その剣の柄を握っているのは髪が白くなり、瞳を赤くした洋子だった。
「・・・ッ!洋子・・・!」
燃は苦しそうな顔で洋子を見る。
そんな燃の顔も気にとめず、洋子は燃の握っている巨大な剣を真ん中のあたりで両断した。
「くっ・・・」
燃は折れた巨大な剣を捨て、新たに小さく凝縮した剣を作り出す。
洋子は細長い剣を上段に振りかぶり、燃に向かって振り下ろす。
態勢を立て直した燃は、それを先程作り出した剣で受けようとした。
しかし燃の剣は洋子の剣の強度に負け、折れた。
燃は慌てて飛びずさって致命傷は避けたが、肩を切られ、そこから血が吹き出る。
間合いを取った燃は態勢を立て直そうとしたが、腹に激痛を感じ、そのままの態勢で固まった。
自分の腹を見るとそこからは剣の切っ先が突き出ている。
「俺は何にもしないとは言ってないぜ。」
後ろには右手を剣に変えた健一が居た。
その剣は燃の腹を貫通し、その先からは燃の血が滴り落ちている。
「健・・・一・・・ごほっ!」
血を吐きながら、燃は健一の腕、つまり剣を掴む。
「・・・?」
健一は訳がわからないと言った風に自分の腕を掴んでいる燃の腕を見た。
「はっ!」
燃が気合の声を入れると同時に、燃の腕から健一の腕にかけて空間が歪む。
すると顔を引きつらせた健一が慌てて後ろに飛びのいた。
「おまえ・・・何をした・・・?」
健一がそう言うと同時に健一の腕が灰のように崩れ落ちた。
「・・・エネルギー・・・を大量に・・・流し込めば、流し込まれた・・・相手の体は・・・エネルギーを・・・蓄え切れなくなって、崩壊する。」
苦しそうにそう言った燃は、もう立っているのも限界なのか足が震えている。
やがて燃は力が抜けたように膝をつき、前のめりに倒れた。
「さすがに限界みたいだな・・・燃。」
健一はそう言って左手を剣に変え、燃の喉元に切っ先を向ける。
「はあ・・・はあ・・・」
息遣いの荒くなった燃は健一を睨みつけた。
「・・・さすがだな・・・まだ戦うつもりでいるのか・・・」
健一は感心したように言った。
立つこともままならない燃は赤いオーラを纏おうとするが、もう体が限界なのか、すぐに消えてしまう。
「・・・安心しろ。すぐに楽にしてやる。」
健一はそう言って剣を振りかぶった。