第3話 驚きの一言
「なあ、荒木燃の記録とかってあるか?」
突然健一が教室の中で洋子に向かってそう囁く。
「え?写真とかならあるけど・・・」
「そうか・・・じゃあ、今日お前の家に行こう。」
健一は立ち上がり、そう言った。
「うん・・・って、ええ!!うちに来るの!?」
洋子はひそひそ声で叫んだ。
普通、男が女の家に入るとなると恋人同士かそれ以上の関係であることが多い。
「ん・・・?ああ。何か問題でもあるのか?」
不思議そうな顔をし、健一がそう言った。
この言動から健一は相当恋愛には疎いようだ。
「いや・・・あの・・・だって、私も一応は女だよ・・・?」
戸惑いの表情を浮かべながら洋子が言った。
「ああ・・・そんなことか・・・安心しろ。俺の目的は違うところにあるからな。別に手を出したりなんかしねえよ。」
「ふ〜ん。」
洋子が疑わしい目で見る。
「・・・そういえば、エネルギーの使い手って何?」
ふと思い出したように洋子が言った。
健一が自己紹介のときに話していたことだろう。
「ああ、それはだな・・・裏の世界で結構有名なんだけどな・・・」
「裏の世界・・・?」
怪訝な顔をしながら洋子が訊く。
裏の世界というのはやはり漫画とかに出てくる、アレのことだろうか。
「裏の世界って言うのは・・・まあ殺し屋とか、そういうグループだ。」
「うわ・・・本当にそういうのがあるんだ・・・」
洋子は疑った様子を全く見せず、驚いた表情をした。
「ああ・・・で、話を戻すぞ。エネルギーの使い手っていうのは自分のエネルギー・・・つまり人間の原動力を自在に操れて、さらに気功術も使える人物のことだ。」
おそらく説明が難しいのだろう。
健一はずいぶんファンタジー的な話をしているにもかかわらず、難しい表情のまま説明をした。
「・・・それってすごい強いじゃん・・・本当にそんな人いるの?」
洋子は不審な目をしながら言った。
さすがの洋子もそこは信じ難いようだ。
「知らん・・・ただ、実在するとは言われている。」
「・・・実在するかどうかもあやふやなんだ・・・」
洋子は苦笑いをしながら言った。
「まあ、・・・そういうことだな・・・」
肩をすくめて健一が言った。
「だから、とりあえず荒木燃の方に当たってるんだよ。」
「成る程・・・」
洋子は納得したように頷きながら言う。
「ということで、今日はお前の家に行くからな。」
「どういう訳か分からないけど、まあ・・・いいよ・・・」
洋子は不安そうに頷いた。
「安心しろ。日が沈むまでには帰る。」
「え?何で?」
「なんだ?居て欲しいのか?」
健一はからかう様にしてからそう言ってにやりと笑った。
「何でそういうことになるの!?」
不意を打たれたのか、洋子が顔を赤くしておもわず叫び、勢いよく立ち上がる。
「おいおい・・・お前・・・注目の的になってるぞ。」
面白いものを見るような目で健一が静に言った。
「うっ・・・」
相当恥かしかったのだろう。
洋子は顔を真っ赤にして座った。
「健一君のせいだよ。」
「何でだよ。」
「だって健一君が変なこというから・・・」
「変なことって・・・俺はただお前の言葉を冷静に分析しただけだ。」
「で・・・でも・・・」
「でも?」
「うう・・・」
問答の末、悔しそうな顔をして唸るだけになってしまった。
「まあ、そういうことで今日は一緒に帰るぞ。」
そう言って健一が教室のドアを開けた。
「え?あ・・・うん。・・・って、あれ?もうすぐ授業だよ?」
洋子が気づいたようにそう言ったが、健一は無言のまま教室を出て行った。