第21話 過去
「で?1年前の話しだっけっか?」
燃は仕方なさそうに言った。
「ああ・・・頼む。」
健一は懇願するように言った。
「まず、俺は学校の帰りにリンにナイフで刺された。」
燃は落ち着いた様子で言った。
「「ちょっと待て!」」
健一と洋子は思わず止めた。
「何だよ?話して欲しいって言ったのはお前だろ?」
燃は話を途中で止められたのが気に食わないのか、不機嫌そうに言った。
「何だよ刺すって!?殺そうとしたのか!?何でお前を殺そうとしたやつが今助手をやってんだよ!?」
健一は驚いたように言った。
「助手になった理由はあとで話す。殺そうとした理由はリンは別の世界の住人で空間転移したところを見られるとまずかったらしいんだ。で、俺がそこを見ちゃったから刺されたって訳だ。で、俺は刺されたわけだが何とか一命を取り留める。ここまでは分かるか?」
燃は健一と洋子に聞いた。
「ああ、なんとか・・・」
「まあ、大丈夫かな?」
二人とも何とか大丈夫そうだった。
燃はその様子を見て頷き、口を開いた。
「しばらくして、俺は敵の目的を知る。その目的は『この世界の人間を全て殺し、自分達がこの世界をのっとる』ということだった。」
「そんなことして、何の得があるんだ?」
健一が口をはさんだ。
「どうやらその原因は向こうの世界では草木が少なくなって酸素不足になっていたことだったそうだ。」
「なるほど・・・それでこっちの世界に移り住もうって考えたんか・・・」
健一は納得した表情で言った。
「でも、自然を破壊しないで人間だけ殺すなんてことが出来るのか?」
健一は思いついたように言った。
「ああ、向こうの世界の科学はこっちの数十倍発達していて、強制的に心臓麻痺させる薬を出す3mほどのミサイルを何十億と持っていたんだ。しかもその一つ一つが一つの町を滅ぼすほどのクスリをばら撒くんだそうだ。」
「ああ、なるほど・・・それで人間だけ殺そうってか・・・」
健一は頷きながら言った。
「それを聞いたら俺たちも見てるだけって訳にはいかない。その俺たちって言うのが、俺と俺の兄貴の荒木慎之介、俺の親友の大蔵達也、その父親の大蔵正人、そして俺の師匠の小泉あんな。この5人で向こうの世界に乗り込んだ。」
「そういえば、その燃の言っている師匠って何なんだ?何の師匠なんだ?」
健一は燃に聞いた。
「あ・・・いや・・・えっと・・・と・・・とりあえず、話を続けるぞ?」
燃はしばらく戸惑ってから、思いついたように言った。
「向こうの世界で師匠は空間の亀裂を生み出しているエネルギーの機械の破壊の爆発、大蔵正人は俺を守って、兄貴も俺を守って、達也はミサイルの起動を向こうの世界に変え、さらに俺とリンを転送して、それぞれ死んでいった。」
燃の表情に一瞬影がさした。
「何で達也ってやつはそのときに自分じゃなくてリンを?」
健一は不思議そうに聞いた。
「達也はその前に敵の大将と撃ち合って腹を撃ち抜かれていたんだ。そこで達也が考えたのが、最後の最後で俺たちを助けてくれたリンを俺の助手として俺たちの世界へ送ることだった。」
「助けた・・・?」
「ああ、リンはどうも人を殺したくないらしくてな・・・大将が死んでしまったのなら殺す意味はない、俺たちを助けてくれるって言ってな・・・」
燃は懐かしむように話した。
「最初に俺が送られて一人で呆然と立っていたとき、リンも転送されてきて、知り合いがいなくなったって落ち込んでいた俺に『助けたり殺しあったりもした仲なのに私を知り合いに入れないのはおかしいんじゃないのか?』って言ってきてな・・・あの時はものすごく嬉しかった。」
燃はそう言ってリンの方を見た。
リンは照れているのか顔に赤みが差している。
「でも、やっぱり心の傷は大きくてな・・・今でも兄貴に師匠に正人さんに達也、みんなの死ぬときの光景が今でも夢に出てくる。」
燃は悲しそうな顔をしながら言った。
「で、空間を無理やりこじ開けて無理やり閉じたせいか、別の世界へと繋がってしまい、今に至る。とまあ、こんなところか。」
燃はそう言って立ち上がった。
「ああ。悪かったな、辛い話をさせて。」
健一は立ち上がった燃の後姿を見ながら言った。
「気にするな。」
そう言って振り返った燃の顔にもう影は差していなかった。