第2話 屋上の話
「ほう・・・何か知っているのか・・・?」
頬杖をついたままの姿勢で健一は言った。
「うん。・・・一応・・・」
そう言った洋子の顔に一瞬、影が差した。
急に健一は立ち上がった。
「よし。昼休み、屋上へ来い。話がある。」
普通の人が聞くと告白する前のような危ない言葉を発すると健一はズカズカと教室を出て行った。
洋子はあっけにとられ呆然と立っていた。
結局、三時間目の授業が終っても健一は教室に帰ってくることは無かった。
ー昼休みー
洋子は屋上へ来いと言われてしまったので仕方なく屋上へ向かう。
屋上のドアを開けると、2人の男の子が寝ていた。
一人は健一、もう一人は1時間目の授業の途中から消えてしまっていた信吾であった。
「あれ?」
洋子はまたもやあっけにとられた。
てっきり一人だと思っていたのである。
「あ・・・あの・・・健一君?」
洋子が健一を起こそうと健一の体に触ろうとする。
その瞬間、健一はものすごい勢いで起き上がり、洋子の胸座をつかんだ。
「は・・・・はあ・・・はあ・・・お前か・・・」
悪い夢でも見ていたのか、健一は息を切らしている。
その表情は何かに怯えているようにも見えた。
よく戦場にいる兵士は警戒心が強くなるというがこんな感じなのだろうか。
「あの・・・もう放してもらえるかな・・・?」
洋子はなるべく笑顔を保ちながら言った。
「あ・・・すまん。」
ばつの悪そうな顔をして、健一が手を放す。
女の子の胸倉を掴んだのだ。
かなり気まずいだろう。
「ううん、大丈夫。」
身なりを正すと洋子は健一の横に座った。
「俺のこと、恐くないのか?」
その様子を見て驚いた表情で健一が言う。
もともとの顔が怖い上にいきなり掴みかかったら誰でも驚くだろう。
「ん〜・・・そんなには、恐くないかな・・・?・・・まあ、正直言うとちょっとは恐いけど。」
洋子は笑いながら言った。
「そうか・・・」
健一は苦笑いをした。
どうやら洋子は嘘がなかなかつけないタイプのようだ。
「でもそこの人もあなたのこと恐がって無さそうだけど・・・?」
洋子は寝ている信吾を指差して言った。
「そういえば・・・そうだな・・・」
不思議そうな顔をしながら健一が首をかしげる。
「で?そういえば私に話って?」
洋子は本来するはずだった話に戻した。
「ああ・・・そうだった。」
健一は洋子の手をつかんで少し信吾から遠ざかった。
念のため、信吾が起きてしまわないようにだ。
「俺は今、荒木燃を探しているんだ。」
「燃は死んだよ?1年前に・・・あの事件で・・・」
洋子の顔が曇った。
知り合いが死んだという話をして明るくなる者などいないだろう。
「いや、おそらくやつは生きている。その証拠にDNA鑑定で分かったんだがやつの血痕があの町に残っていた。」
「何でその血痕で燃が生きてるって分かるの?」
洋子は疑った目でそう言った。
今まで死んだと思っていていきなり実は生きているなどと言われて疑うのは当たり前だろう。
それにそこに残るほどの血痕だ。
相当な傷を負っていたことだろう。
つまりその情報では燃が生きている可能性は極めて低い。
「実は、やつの血痕はあの町から隣町の川まで続いていた。・・・まあ、出血多量で死んでいる可能性もあるが死体が見つかっていないからそれは無いと思う。そして途中でその血の量が少なくなっていた。自分一人で手当てが出来たとは思えない。」
「というと、どういうことなの?」
「やつは、何らかで傷を負い、その手当てを他の誰かにしてもらった。つまり、やつが死んでいる可能性はほとんど無い。」
「・・・・・・そう。本当に生きていれば良いけど・・・」
洋子の顔が少し明るくなった。
その時、信吾がもぞもぞと動き出した。
「そろそろ戻ろう?」
洋子は健一に向かって言う。
「ん・・・ああ。そうだな。」
二人はそのまま教室に向かっていった。