第15話 隙
「よし。じゃあ、リン。殺さない程度にな。」
燃はそう言って後ろへ下がった。
「分かった。任しといて。」
リンはそう言って戦闘の構えを取った。
「ち・・・ちょっと待ってくれ。」
健一は慌てながら言った。
「何だよ?便所か?」
燃は笑いながら言った。
「そうじゃなくて・・・なんで女の方なんだよ?あんたが戦うんじゃないのか?」
健一は燃のことを指差しながら言った。
「いや〜・・・俺、戦闘あんまり好きじゃないからさあ・・・」
燃はそう言って自分の頭を掻いた。
「だからって女にやらせるなよ!それに、俺はあんたと戦ってみたいんだが・・・」
健一は燃に言った。
「ふっ、俺は戦わないって言ってるだろ?それにそいつを女と見ないほうがいいぞ?」
燃がそう言った瞬間、燃の頬から血が垂れた。
壁にはナイフが刺さっていて、燃の前にはナイフを投げた後の格好のリンが立っていた。
「なんか言った?」
リンはにっこりと笑いながら言った。
「な・・・何も・・・」
燃はそう言って首を横に振った。
「こ・・・こういうことだ・・・分かったか・・・?」
燃は涙目になりながら言った。
「あ・・・ああ・・・」
健一も戸惑いながら言った。
「それじゃあ、行くよ。」
リンはそう言って健一に向かって走り出した。
健一は身構えた。
「こっちだよ。」
健一の後ろからリンの声がした。
「なっ!?」
リンは健一を思い切り蹴り飛ばした。
健一はすごい勢いで吹き飛び、校舎の壁に激突した。
壁はその衝撃に耐え切れなかったのか、崩れた。
しばらくしても健一は起きてこない。
「もう終わりなの?」
リンはゆっくりと歩きながら言った。
リンが瓦礫の前まで行くと、健一は突然起き上がり、リンの足を掴んだ。
健一の手は獣のような腕になっていた。
「隙あり!」
健一はそう言ってリンを壁に向かって投げ飛ばした。
しかしリンは空中で向きを変え、壁に両手足をつけて衝撃を緩和した。
「すごい力。」
リンは感激したように言ってから、壁を蹴り、健一のところへ突進していった。
「な・・・何なのあの娘?」
洋子はその戦いに見とれながら言った。
「俺の助手。」
隣に居る燃は簡潔に答えた。
「そうじゃなくて、なんであんなに強いの?・・・っていうか、人間業じゃないよね?」
洋子は指差しながら言った。
「ああ、だって人間じゃないもんな。」
燃は腕を組みながら言った。
「え?今なんて?」
洋子は自分の耳を疑った。
「やつは・・・化け物なのさ。」
燃がそう言った瞬間、燃の髪の毛が数本、はらはらと落ちた。
見ると、燃のすぐ上にナイフが刺さっていた。
「・・・・・・っぎゃー!!」
燃はしばらく黙った後、叫び声をあげた。
リンが健一と戦いながら燃の足を思い切り踏んだのだ。
「こいつの言うことは信じちゃ駄目だよ。ちゃんとした人間だからね。」
リンは洋子の横を通り過ぎながら言った。
そのとき、ようやく洋子は燃の言っていることが冗談だったのだと気づいた。
「燃、もうちょっと分かりやすい嘘ついてよ・・・」
洋子は小声で言った。
「すまん、確かに分かりにくかったな・・・」
燃がそう言った瞬間、今度は健一が燃に直撃した。
「「ぐはっ!!」」
二人とも叫んだ。
「ごめんごめ〜ん。飛ばす方向間違えた。」
健一はすぐさま起き上がり、再びリンのところへ突っ込んでいった。
燃は倒れたまま動かなくなった。
「ね・・・燃?大丈夫?」
洋子は燃の肩を揺らした。
「・・・・・・」
リンは燃と洋子の方に一瞬だけ目が行ってしまった。
視線を戻すとそこには健一は居なく、健一はリンの懐へ飛び込んでいた。
「しまっ・・・」
健一は思い切り足を踏み込み、体全身のばねを使って、リンの腹部に肘うちをヒットさせた。
リンはたまらず吹き飛び、その勢いで校舎の壁に体でぶつかり、校舎の壁を粉々に崩した。
「ふう・・・今度こそ隙ありだな・・・」
頭から血を流しながら健一は言った。
「くっ・・・はあっ、はあっ。なかなか・・・やるじゃない・・・」
リンはわき腹を抑え、よろよろと立ちながら言った。
リンの体はあちこちに傷を負っていた。
「私の・・・負けね・・・」
リンはそう言って仰向けに倒れた。
「いや、最後に君が脇見をしなかったら俺が負けていただろうな・・・」
健一はにやりと笑いながら言った。
健一もさすがに限界が来たのか、うつ伏せに倒れ伏した。
その瞬間、校舎の壁を崩して鬼の姿をした妖が健一達の目の前に現れた。
「なっ!?・・・くそっ!!何でこんな時に・・・」
健一は体を動かそうとしたが、全く動かなかった。
「くっ!」
健一は死を覚悟し、目をつぶった。




