第13話 殺気
いつものように学校が終わり、倉田信吾はいつもと同じように下校した。
「そこの兄ちゃん、ちょっと顔貸してもらおうか?」
下校の途中、信吾はいかにも柄の悪そうな連中に囲まれていた。
奥の方から、強そうなやつが出てきた。
「よお、兄ちゃん。ちょっと俺たち金に困っててよお、金、10万程貸してくれねえかな。」
その強そうなやつはにやりと笑いながら言った。
他の連中も笑っている。
「ちょっと、良いの?倉田君、不良に絡まれてるよ?」
洋子は少し離れた壁の影から信吾たちの様子を見ながら健一に向かっていった。
「大丈夫だ。やつらはさっき俺が手なづけてきたやつらだ。多少の傷は負わせても、それほど大きな怪我はさせない。」
健一も覗き込みながら言った。
「・・・・・・手なずけたんだ・・・」
洋子は呆れた目で健一を見ながら言った。
「分かりました・・・」
信吾はそう言って財布を取り出した。
「渡しちゃうみたいだよ?」
洋子は健一の事を見ながら言った。
「大丈夫だ。取り上げても明日ちゃんと返す。」
健一は双眼鏡で見たまま言った。
「ふ〜ん・・・」
洋子もそう言って再び覗き始めた。
「10万円はありませんが5万円くらいはあります。これで勘弁してください。」
信吾はそう言って財布を差し出した。
「へっ、それじゃあ足らねえな。今すぐとって来い。」
不良は笑いながら言った。
「それは・・・無理です・・・」
信吾は目を逸らしながら言った。
「じゃあ、しょうがねえな。てめえら、他のやつを連れて来い、出来るだけ女の方がいいなあ。」
不良は信吾を見てにやりと笑いながら言った。
「止めてください!あなたたちには人情というものが無いのですか!?」
信吾は不良に向かっていった。
「そんなんじゃ、金はたまんねえんだよ!それにお前が金を持っていないのが悪りいんだろうが!」
不良は信吾の胸座をつかんでいった。
「連れてきやしたぜ。」
一人の不良が信吾と同じくらいの年の女の子を連れてきた。
「ねえ、君、ちょっとお金貸してくれないかなあ?」
その不良は笑いながら言った。
「い・・・嫌よ。どうせ、返すつもりも無いんでしょ。」
その女の子は強気に出た。
「ほう、よく分かっているじゃねえか。じゃあ、言い方を変えよう。・・・金を出せ。」
不良は恐い顔をしながら言った。
「ば・・・ばっかじゃないの!?そんな事言われて出す人はいないよ!」
女の子はさらに強気に出た。
「へっ、だったらしょうがねえな。」
不良はそう言って立ち上がった。
「ちょっと強引だが仕方ねえ。」
不良はそう言って拳を振り上げた。
「きゃっ!」
女の子はその拳が当たる寸前、後ろに転んで回避した。
「何!」
不良が女の子を見ると、そこには女の子の肩を抱いて支えている信吾の姿があった。
不良の拳が女の子に当たる寸前で信吾が女の子の足を引っ掛け、転ばし、頭を打たないように支えたのだ。
「大丈夫ですか?」
信吾はその女の子に笑いながら声をかけた。
「は・・・はい。ありがとう・・・ございます。」
女の子は顔を赤らめながら言った。
「てめえ、何しやがった・・・」
不良が恐い顔をして信吾に聞いた。
信吾はその不良のことを睨みつけた。
その途端、その不良はしりもちをつき涙を流し始めた。
「・・・かっ・・・はあっ、・・・はあっ、・・・」
息遣いも激しくなっている。
「だ・・・大丈夫ですか!?」
他の不良がその不良のところへ駆け寄り、信吾と女の子はその隙に不良達から逃げた。
「はあっ・・・はあっ・・・な・・・何?今の・・・」
洋子も息遣いが激しくなっていた。
「今のは・・・多分、殺気だろう・・・」
健一も汗をかきながら言った。
「殺気!?・・・殺気・・・なんかで・・・あんなに・・・なるの?」
洋子は途切れ途切れに言った。
「やはりあいつは只者じゃあ無いな・・・」
健一は逃げていく信吾を見て言った。