第122話 敵
燃が走って学校までたどり着くと、そこには胡座をかいている俊平の姿があった。
俊平の胸には穴があいており、そこからはとめどなく血が流れ出ている。
「やあ、結界は間に合ったかい?」
「ああ、いいタイミングだった」
俊平は自分の前で止まった燃に訊くと、ゆっくりと寝転がった。
「やはりあんたも妖と融合を・・・?」
「ああ、でも当たり所が悪かったね。もうじきこの命も尽きるだろう」
「助からないのか・・・?」
「助かるんならとっくにそうしているさ」
「・・・・・・そうか」
燃は何処か寂しげに俊平から目を逸らした。
「情けはいらないよ。どうせ、君ももうじき死ぬんだろう?あれを破壊するにしろ、しないにしろ」
「ああ・・・・・・」
空にある空間の裂け目を指で示しながら俊平が言うと、燃は自分の手のひらを俊平に向けながら頷いた。
その手のひらには人差し指がなくなっており、そしてそのなくなった断面から砂のように地面に崩れ落ちてきている。
「エネルギーの使いすぎで命を縮めたか・・・・・・」
「・・・・・・」
「もともと君はこの世界を壊すに当たってエネルギーの使い手が邪魔だから、それに対抗して作られたんだ。つまり寿命までは考えられてなかったわけだな。ついで、あんな無茶な力を使えばただでさえ短い命はさらに縮まる。・・・・・・まあ、単純化するとこんな感じだね」
淡々と独り言のように俊平は一息に説明をした。
「分かってる。自分のことは一番自分が分かってるさ」
「おや?さすがに落ち込んでいるもんだと思ったけど?」
「いや、仲間に助けてもらったからな」
その仲間が誰なのかを察したのか俊平は軽く笑って燃を見た。
「そうか・・・・・・じゃあ、僕になんて構ってないでその覚悟が鈍らないうちに破壊してきたらどうだい?もうそろそろ消えるよ、あの結界」
空間の裂け目全体を覆っている結界を目で示しながら俊平が燃を急かす。
しかし燃はそこを動かず、仰向けになっている俊平を見ている。
「最後に・・・・・・一つだけ聞いてもいいか?」
「ああ、一つだけならいいよ。正直喋るのも苦しいからね・・・・・・」
俊平はそう言って大きく息を吸った。
どうやら本当に苦しいらしい。
「何で敵だったはずの俊平さんがこの世界を救うのを手伝っているんだ?放っておけばそっちが勝っていたかもしれないんだぞ?」
「・・・・・・なんだ、そんなことか。それだったら・・・・・・健一がそっちの味方をした。これ以外に理由は要らないよ。彼は僕らの大将だったからね・・・・・・」
「なるほど・・・・・・」
「そんなことよりも・・・・・・もう本当に時間がないぞ・・・・・・」
「そうだな・・・・・・じゃあ、行ってくる」
燃は背中にエネルギーで羽を作り出すと、少し躊躇いがちにゆっくりと飛び上がった。
「ああ、僕はもう疲れた・・・・・・後はゆっくりと眠ることにするよ・・・・・・」
聞こえるか聞こえないかの声で俊平が静かに呟く。
飛び上がっていく燃の姿を見ながら、俊平はゆっくりとまぶたを閉ざした。