第117話 真剣勝負
燃の漆黒の剣は健一の防御用に作り出した盾と翼を砕き、健一の胸の辺りに刺さっている。
「だから・・・・・・」
健一がゆっくりと左手の指先を燃に向ける。
「こんなもんじゃ俺は死なないって言ったろ!!」
そして健一がそのまま左腕で突くと、健一の腕は燃の腹を貫通した。
「ぐっ!!がはっ、げほっ、ごほっ!!」
攻撃が急所に当たったのか、または再び発作が起こっているのか、燃は多量の血を吐き出した。
健一は勝利を確信したのか、笑みを浮かべている。
「何度も言わせるな・・・・・・」
「!!」
燃が健一の刺さっている腕を掴むと健一の笑みが一瞬にして消えた。
「そんなことは百も承知だ」
そういって燃が掴んでいる腕に力を込めると、健一の腕は砕け散り、灰のようなものと化した。
「なっ!?」
「健一・・・・・・いくらお前でもこれを受ければさすがに死ぬだろう」
「くっ・・・・・・!!」
健一は慌てた表情を浮かべ急いで左腕を修復する。
しかしその瞬間、燃の周りにあった4本の剣が健一の両手足にそれぞれ突き刺さり、地面まで貫通する。
つまり張り付け状態である。
健一が力づくで抜こうとするが、相当堅いらしく剣はびくともしない。
「やはり・・・・・・強いな、お前は」
そう言って健一は諦めのためか微笑を浮かべている。
「まあな」
燃も微笑を浮かべて剣を掴んでいる腕に力を込めた。
「・・・・・・」
先程と何も変わらない。
唯一変わったことといえば、
腕を動かしてみても別に不自然は無い。
ただ、体が軽い。
そんな気がする。
辺りを見回すと灰のような白い粉で包まれていた。
「起きろ」
「痛っ!!」
頭を蹴られた。
蹴った人物をにらみつける。
その人物は・・・・・・
「燃!?」
構えもせずにただそこに突っ立っている荒木燃だった。
「何だよ?頭でも打ったか?」
「違う、って言うかなんで俺死んでねえんだよ!?お前、殺すつもりで来たんじゃないのか?」
「最初はそのつもりだったんだがな。何だかやる気が無くなった。」
燃の表情を見ると本当に殺意が無いらしい。
「ふざけるなよ・・・・・・!!」
「何が?」
「お前、真剣勝負じゃなかったのかよ!?」
「そうだったんだけどな・・・・・・」
そう言って燃が空を見上げる。
「くだらなくなっちまった」
燃がそう言った瞬間、健一が地面を蹴って燃に飛び掛った。
健一が繰り出した攻撃を燃が素手で受ける。
「なっ!?」
思わず健一が驚きの表情を浮かべた。
巨大な剣に変わったはずの右腕が素のままなのだ。
「やめておけ。この周りにある粉全てがお前の体の大部分だ。」
燃は自分達の周りを囲み、山のように積まれている粉を指しながら言った。
「自分の体が保てる分だけお前の体を残しておいた。・・・・・・まあ、身体能力は変わらないだろうけどな。」
「・・・・・・ッ!!・・・・・・何か、俺にさせたいんだな。」
健一が怒りを抑えて訊く。
「ああ、お前に新たな使命を与えたい。」