第114話 共通点
一瞬何が起こったのかわからなかった。
いきなり燃が振り向いて何かを投げたと思ったら、今度はいきなり視界をさえぎられた。
その視界とは・・・・・・
「健・・・一・・・君?」
洋子の目の前に立っている人物、それは健一だった。
そして健一が前に出した腕には赤いオーラでできた剣が深々と刺さっている。
「・・・・・・」
無言のまま健一は燃を睨む。
「・・・・・・何で助けた?」
燃が投げたままの体勢で健一に訊く。
その顔にはわずかだが安堵の表情が見られた。
「もし、計画を実行するならそいつは不必要なはずだろ?いや、むしろ足手まといのはずだ。なのになぜ助ける?」
厳しい表情で燃がさらに健一に質問をする。
「待て待て待て!!燃、お前何やってんだよ!?」
「そうだよ!!その人はもう操られてないんだよ!!」
良平がそう言いながら燃に近づくのに合わせて美穂も怒った口調で燃に歩み寄る。
「知ってる。」
健一から目を離さずに燃が良平たちに質問に答える。
「じゃあ、何で?」
「・・・・・・健一を試したんだろ?」
「「えっ!?」」
燃の代わりに、後ろにいた光太郎が質問に答えると良平と美穂が思わず振り返る。
「まだそいつが人の心をなくしていないか、確かめたんだろ?」
「はい。」
光太郎が健一を示しながらそう言うと、燃はそれを肯定する。
「そしてその証拠にリンが全く動かなかった。」
そう言ってリンを見るとリンは代わりに笑顔を見せることでそれを肯定した。
「でも、そんな危ない賭け・・・」
「確証があったんだろ。そいつが助けるって言う確証がな。」
腕から剣を抜いている健一を見ながら光太郎が言った。
「まあ、そういう事だ。大体、光太郎さんの言ったことであっている。・・・・・・健一、やっぱりこんなことはやめにしよう。」
「うるさい・・・」
「こんな事をしても誰も幸せになれない。」
「黙れ。」
「お前はこんなことは望んじゃいないはずだ。」
「黙れ!!」
健一が声を荒げる。
それに合わせて燃も口を閉じた。
怒りのためか、健一は肩で息をしている。
「お前に俺の気持ちなんて分かるはずがない!!俺はこっちの世界を壊すために作られたんだぞ!?なのにお前らと馴れ合えると思うか!?」
健一は今まで溜まっていたものを吐き出すかのように一気に怒鳴る。
「何言ってるんだ、あいつ?」
「・・・・・・さあな。」
健一の言葉を聴いて良平が光太郎に訊くが、どうやら光太郎にも分からないらしく、それだけ言って光太郎はまた健一と燃との会話に集中した。
「お前らと馴れ合いしたところで俺の存在意義はどうなる!!俺が生きている意味はこの世界を壊すことしかないんだ!!」
「・・・・・・そうか。そういうことだったか。」
しばらく聞くだけだった燃がやがて口を開く。
「何?」
「いや、お前が何を無理して戦っているのかと思えば・・・・・・なんだ、そういうことだったのか。」
燃は一人で納得したようでそう言いながらしきりに頷いている。
「どういう意味だよ?」
健一が脅しをかけるような声で燃に訊く。
「お前は弱いってことだよ。今それがはっきりと分かった。」
「何が言いたい!!」
最初のときの余裕の笑みは消え、今はただ燃のひたすら怒りをぶつけている。
「何が『この世界を壊すだけのために生まれてきたから』だ!!そんなの理由になると思ってんのか!?なる訳がない!!そんなの無視すればいいんだよ!!」
「じゃあ、俺の存在意義はどうなる!!俺は何をして何のために生きればいい!?」
「それも無視すればいいんだよ!お前は生まれてきたんだから自由に生きればいいんだよ。」
「お前に俺の何が分かる!!」
「今言ったこと全てだ!!」
「・・・・・・何?」
思わず健一が聞き返す。
「全てだよ!お前が今言ったこと全てだ。」
「嘘だ!!分かるはずがない!!」
「いや、分かる!俺もそうだったから・・・」
燃が口調を緩めながら言い切る。。
「何だと・・・?」
「俺もこの世界を壊すために・・・いや、まあ正確にはこの世界を壊すのに邪魔だったエネルギーの使い手を倒すために作り出された、いわば兵器だ。」
健一が怪訝な顔をすると燃が説明をする。
「だけど俺の兄だった、って言っても本当は違かったんだが・・・とりあえず俺は・・・その兄貴にある使命を与えられた。」
「使命・・・?」
「ああ、使命だ。この世界を守るっていう使命だ。」
「・・・・・・」
「だから俺はこうして道を間違わずに生きていける。お前には使命はないのか?」
真剣な表情のまま燃は健一に訊く。
「・・・・・・」
健一はその質問には答えず、そのまま黙っている。
燃もなにもいわずにただひたすら待ち続けている。
良平たちもその緊張の空気に息を潜める。
どれだけの時間が経ったのだろうか。
そしてしばらくすると、
「ああ。今見つけた。俺の・・・使命。」
健一がようやく口を開いた。
そう言った健一の顔には先ほどの迷いは無く、まっすぐと現実を受け止めている顔だ。
「俺の使命、それは・・・・・・」
目を閉じ、一息入れる。
そしてゆっくりと目を開け、燃の顔をまっすぐ見る。
「妖の世界を守ること。これが俺の使命だ。」
一言一言自分に言い聞かせるようにして健一はその言葉を口に出した。
「・・・・・・そうか。」
燃も何かがすっきりしたのか僅かに微笑さえも浮かべている。
「それがお前の使命なんだな?」
「ああ。」
燃が確かめるようにして訊くと健一は少しの迷いも無くはっきりと答えた。
「・・・・・・そうか。これでようやくお前と本気で戦えるな。」
「ああ。お前の本気、見せてもらうぞ!!」
二人はそう言ってお互い戦闘の体勢をとった。