第112話 信頼
洋子は何も言わずに、座り込んでいるリンの近くに歩み寄って行った。
「リンさん・・・」
洋子の呼びかけにリンが振り向く。
今まであったはずの長い髪が短くなっているので、かわいらしい男の子のようだ。
「あの・・・ごめんね。何だか裏切っちゃったみたいで・・・」
洋子は気まずそうにリンの話しかける。
今まで仲の良かった者が一度戦い、そしてその後で再び仲良くなるということはなかなか難しいものである。
「・・・・・・ううん。燃なら何とかしてくれると思ったから、私は全然気にしてないよ。」
リンが笑顔でそう言うと、洋子は静かに首を横に振った。
「?・・・どうしたの?」
「ううん。リンさんって本当に燃のことを信用しているんだなあって思って。」
洋子の不可解な行動にリンが訊くと、洋子は笑いながら言った。
そう、それは恋愛対象とかそういうものではなくて、まるで肉親のように信頼しあっているのだ。
「どうしたらそんなに信頼しあえるのか、不思議なくらいだよ。」
そう洋子が言った瞬間、リンたちの間近で爆音と共に砂煙舞い上がった。
「何だ!?」
腕が取れているためか、光太郎がそう言いながらバランスが悪そうに立ち上がる。
良平や美穂も立ち上がり、それぞれの武器を握っている。
もちろん、リンも砂煙の中心部目掛けてレーザーガンを構えている。
4人とも反応が恐ろしく速い。
今までこの集団とまともにやり合っていたと思うと、自分が恐ろしくなってくる。
砂煙が晴れてくると、徐々に内部の様子が分かってくる。
「燃!?」
リンが思わず声を上げた。
そこに居たのは両腕が獣の腕と化し、背中から翼を生やした健一と、その健一に首をわしづかみにされて力なく宙吊りにされている燃。
燃はすでに満身創痍であちこちから出血している。
健一はとどめでも刺そうとしているのか右腕に紫色のオーラを纏いながら、その爪を燃に向けている。
しかし、何かに気づいたのか途中で止め、リンたちの方に振り返る。
「洋・・・子・・・?」
一瞬だけ健一が安心した表情を浮かべる。
「生きて・・・いたのか。」
その表情は敵になる前の健一の表情だ。
「気になってたことがようやく分かって安心したか・・・健一?」
「!!」
すぐ近くでそんな声がし、健一は驚いた表情で自分が掴んで無抵抗のはずの燃を見る。
「油断はするな、って言ったろ?」
そこには漆黒のオーラを纏い、掌を健一に向けている燃の姿が。
次の瞬間、健一はそこから発せられたオーラによって弾き飛ばされた。