第108話 傷
燃に言われて迷った後、良平たちの方へ向かおうとした美穂の目の前に燃が吹き飛ばされてきた。
「燃!?」
「ぐっ・・・ごほっ、げほっ、ごほっ・・・!!」
小さくうめいた後、燃が激しく咳き込んだ。
「いよいよ限界か・・・?」
一瞬だけ周りに目をやると、健一が余裕の笑みを浮かべながら燃にゆっくりと歩み寄る。
「さあな・・・」
そう良いながら燃はゆっくりと立ち上がり、再び構えた。
「一つ、良いことを教えてやろうか?」
「良いこと・・・?」
健一の問いかけに燃が聞き返す。
「ああ、俺のこの攻撃・・・どうなっているか分かるか?」
そういって健一は自分の腕に紫色のオーラを纏わせた。
「・・・いや、分からないな・・・」
警戒を解かずに燃がそのオーラを見ながら言った。
「だろうな・・・まず、こっちの世界に気というものがあるように向こうの世界にも妖気というものがある。それを収束したものがこれだ。
「・・・なぜ今更それを?」
「まあ、待て。まだ話が終わってない。」
燃が訊くと健一は焦らすようにしてそれを止めた。
「この妖気ってのはな、妖にとっては害がない・・・というかむしろプラスになるんだがな、人間にとっちゃあ・・・かなり毒なんだ。」
健一がそう言って話を切ると一瞬だけ他方に目をやった後に美穂の方にチラリと視線を向ける。
その行動を燃は見逃さず、すぐに美穂の方を振り返った。
「えっ・・・!?な・・・何?」
美穂は突然燃が振り向いたため、驚きの表情で素っ頓狂な声を上げた。
「美穂、腕を見せろ!!」
「へ・・・?なんで?」
訳が分からないのか、美穂は戸惑いながら燃に訊く。
「いいから!!」
燃は問答無用で美穂の腕を引っ張り、袖を捲り上げた。
「痛っ!ちょっと燃、何する・・・の・・・」
始めは抵抗したものの、自分の腕を見た途端、美穂は言葉を失った。
「何・・・これ・・・?」
そのままの硬直した状態で美穂はそれだけ言った。
美穂の腕には健一の攻撃によってついた傷があり、その傷は黒ずんでいた。