第107話 遅れ
良平の頬を一筋の汗が流れる。
「・・・・・・?」
おかしい・・・いつまで経っても体に痛みは走らない。
反射的に閉じていた目を良平はゆっくりと開く。
半壊した校舎の三階には上半身を失った美樹の体だけが残っていた。
上半身は下に落ちてすでに動かなくなっている。
そしてその少し先には校舎の壁に刺さっている大剣。
ほぼ反射で良平は美穂と健一の居る方に顔を向けた。
そこには健一に背を向け、投げた後の体勢の美穂。
おそらく皆を守るために自分の持っていた大剣を投げたのであろう。
そして彼女の腹には黒い槍のようなものが突き出ている。
「美穂っ!!」
良平は立ち上がって駆け寄ろうとするが、妖の細胞でもまだ回復しないのか、足に力が入らずにすぐに転んでしまう。
健一が変形させた自分の腕を美穂から引き抜くと、そこから血が流れ出ると同時に美穂はうつ伏せに倒れた。
「・・・馬鹿なやつだな。」
そう呟くと健一は紫色のオーラを纏わせた右手を美穂に向けて掲げた。
「じゃあな。」
そして紫色の衝撃波を動けない美穂に向けて放った。
美穂はさすがにこの状態から健一の攻撃を捌ききるのは不可能と感じ取ったのか、諦めるようにして目を瞑った。
「・・・・・・」
健一は無言のまま目の前の光景を見る。
本来なら今の攻撃で死んでいたはずの美穂。
しかし美穂の命を奪うはずの攻撃は目の前の壁によって阻まれた。
そう・・・真っ赤なオーラでできた赤い壁に。
「悪い・・・少し遅れた。」
燃はそう言って美穂を助け起こす。
「・・・ッ!!」
しかし重症のため力が入らないのか、美穂はすぐに地面にひざをついた。
燃はその様子を見てため息をつくと美穂を抱きかかえて後ろに跳び下がった。
「はあ・・・はあ・・・全く・・・本当に・・・遅すぎるよ・・・死ぬかと思った。」
美穂は苦しそうに息をしながら燃に文句を言った。
「ああ、すまない。色々とあってな。とりあえず何とかして光太郎さん達のところに行け。」
そう言って美穂を下ろすと燃はすぐにエネルギーを左手に纏い、後ろに振り返ると同時に戦闘態勢をとった。
その直後、一瞬にして燃の目の前に右手を掲げた健一が現れた。
健一の右手には紫色のオーラが纏われている。
「「はあ!!」」
燃と健一はほぼ同時に気合の声を上げると、お互いに向けて同時に衝撃波を放った。
二つの衝撃波は相殺され、その衝撃によって二人とも弾き飛ばされる。
「くっ・・・!!・・・げほっ、ごほっ、げほっ!!」
燃はすぐに立ち上がり構えようとするが、咳と共に血を吐いてしまい、その場でうずくまる。
「燃っ!!」
その姿を見て美穂は燃に駆け寄ろうとするが、一人では立ち上がれないほどである。
駆け寄れるはずがない。
「逃げろ!!」
どうにかして近寄ろうとする美穂を燃は怒鳴ってそれを制した。
美穂は一瞬体を強張らせる。
「俺のことは良い!!それよりも今は自分の身の安全を考えろ!!こいつのことは俺に任せておけ!!」
そういうと燃はエネルギーで剣を作り出し、それを振り向きざまに横になぎ払った。
そこには健一がおり、それを予測していたのか、健一は獣のような形をした左腕でそれを止めると再び右腕に紫色のオーラを纏わせる。
「・・・ッ!!」
燃はそれを避けようと足に力を入れる。
「守りながら戦うって大変だな。燃。」
衝撃波を放つ直前、健一がそんなことを言い出した。
「・・・!!」
その言葉によって美穂が燃の丁度直線上に居ることに気づいた燃は避けるのを止め、腕を前でクロスさせて防御体勢を取った。