第104話 手段
「光太郎さん!!」
光太郎の声を聞いて燃は急いで走り寄ろうとするが、洋子に行く手を阻まれる。
そして洋子は燃の腹目掛けて長剣を横凪に振るう。
「くっ・・・!!」
洋子の攻撃を燃は体を大きく捻って避けた。
そこからさらにバックステップで洋子から間合いを取り、体勢を整える。
「はあ・・・はあ・・・げほっ、ごほっ・・・!!」
燃が口に手を当てて咳き込むと指の隙間から血があふれ出てきた。
「くそ・・・!!」
自分の手についた真っ赤な鮮血を見ながら燃は悔しそうに悪態づいた。
視線を洋子に戻すが、すでにそこに洋子はいなくなっていた。
「!!」
後ろから殺気を感じ、ほとんど反射で避ける。
が、一瞬間に合わなかったのか、燃の背中はその攻撃によって浅く切り裂かれた。
しかしそんなことは気にも留めずに燃はその状態から気のこもった後ろ回し蹴りを放つ。
その攻撃は洋子の頭部に見事にヒットし、洋子は少し体勢を崩した。
燃がその隙を見逃すはずが無く、手に気を集中させると洋子の腹部に掌底を叩き込んだ。
すると洋子の体は宙に浮いた・・・が、その途中で洋子は長剣を上段から振り下ろした。
「くっ・・・!!」
燃は反射的にエネルギーで剣を作り出し、その攻撃を防御する。
洋子の剣を弾くと燃はバックステップで後ろに下がり、洋子から間合いを取った。
何とかして洋子を助ける方法は無いのだろうか。
一番手っ取り早いのが、気絶をさせておいて動けない状態・・・つまり拘束する事。
しかし洋子は強い。
そこまで手加減できる余裕は無い。
そしておそらくもう時間も無い。
さて、どうするか・・・
燃がそんなことを考えていると、目の前には洋子の長剣が迫ってきていた。
「!!」
それをエネルギーの剣で受ける。
お互いの剣がぶつかり合い、つばぜり合いになる。
「くっ・・・!!」
「・・・・・・」
洋子の攻撃は意外に重い。
つばぜり合いになると燃でも辛くなる。
「・・・・・・して・・・」
「え?」
洋子の口から言葉が発せられ、一瞬気が抜けた燃はつばぜり合いに押し負け、吹き飛ばされてしまった。
燃は空中で体勢を変え、地面にてついて受身を取った。
「洋子、お前・・・今なんて・・・?」
その顔は驚きというよりも呆気にとられている。
「・・・・・・」
洋子は燃の問いには答えずに無言のまま地面を蹴り、剣を横凪に振るう。
剣の峰に手を沿え、その攻撃を防御した。
「・・・殺・・・して・・・」
「・・・ッ!!」
燃はエネルギーを体全体に送り込むと、思い切り剣を振りぬいた。
洋子はたまらず吹き飛び、校舎の壁に激突した。
今度ははっきりと聞こえた。
『殺して。』
洋子ははっきりとそう言った。
「お前・・・ふざけるなよ・・・?こっちがどんな思いでお前を助けようと思ってんの分かっているのか!?こっちは死ぬ気でお前を助けようとしているんだ!!なのにお前は・・・お前は・・・・・・くそっ!!」
その後の言葉が続かない。
言葉が見つからないわけではない。
立ち上がった洋子の目から涙があふれて出ていたのだ。
燃は耐えかねて思わず目をそらす。
そうなのだ。
助ける方法なんてどこにも無いのだ。
おそらく洋子の体には妖の細胞が埋め込まれ、それによってコントロールされている。
つまりは健一を倒したところで何も変わらないのだ。
やはり洋子に今してやれることは・・・
「分かった・・・」
そう言って燃は剣を構えた。
燃の体からは赤いオーラがあふれ出し、燃の周りを渦巻いている。
「げほっ、ごほっ、ごほっ・・・!!」
しかし燃は突然苦しそうに咳き込み始め、口からは血が流れ出た。
オーラの渦が一瞬縮むが、再びすぐに膨張した。
「安心しろ。一瞬で終わらせてやる。」
そう言って燃はオーラを纏ったまま地面を蹴った。
「はああああああ!!」
洋子との間合いを一気に詰めると燃は剣を上段に振りかぶり、そのまま思い切り洋子目掛けて振り下ろした。
「・・・・・・!!」
相当な衝撃だったのだろう。
洋子がそれを剣で受け止めると、洋子の立っているところにひびが入り、そこから地盤がめくれあがった。
ところが、何を思ったのか燃は今もっている剣から突然手を離す。
「!?」
一瞬驚いた顔をしたが、洋子は燃の姿を見て納得したような顔になった。
燃の右腕は大きな五本の鉤爪に変わっていた。
長剣では間に合わないと思ったのか、洋子は剣から手を離して左手で防御体勢を取った。
燃はそんなことは気にも留めず、右手を容赦なく振るった。