おまけ4:まゆ子とクロディーヌ
血の冬将軍というのが、彼の異名だった。
冬生まれで、血の気が多いために付けられたあだ名であった。
しかし本人──東魔将軍はいたくその異名を気に入り、本日も人類の虐殺に励んでいた。
死屍累々の山に、さしもの魔王も彼に苦言をこぼす。
「冬将軍よ、ほどほどにしたまえ。人類というものは、追い詰められると存外恐ろしいものぞ」
鎖付きの巨大な鉄球を振り回し、東魔将軍は豪快に笑った。
「がーはっは、大丈夫ですとも魔王様! 俺様の肉体でもって、そんな無駄な抵抗も、息の根を止めてやりますとも!」
「いや、だからな、冬将軍よ。うぬが追い詰めれば追い詰めるほど、我らの不利に働かんと……いや、脳筋のうぬに言うても無意味であったか」
魔王は首を振り、己の三倍はある緑色の巨体を見上げた。
残念ながら、その顔には、知性の「知」の字すら見当たらなかった。
どうしてこやつを将軍にまで昇進させたのだろう、と魔王は考える。
──我が軍は、そこまで魔材不足であっただろうか──
夢はそこで途絶えた。魔王の意識は浮上し、まゆ子へと変わる。
前世の名残りを振り払い、まゆ子は周囲を見渡した。今は三限目の、歴史の授業の最中だ。
──授業中にうたた寝とは、なんたる失態!──
まゆ子はうつむき、歯ぎしりした。
幸いにして、教師は優等生の居眠りに気付いていないようだ。
ホッとした彼女は次いで、己の斜め前を見据える。
頬杖をついて堂々と居眠りする金髪の美少女がいた。クロディーヌだ。
──これが血の冬将軍の生まれ変わりとは……──
まゆ子はふ、と遠い目で前世を懐かしむ。
あんなにも虐殺を楽しんでいた筋肉ダルマが、今ではいじめが大好きなただの小娘である。
いや、根幹は変わっていないのか?
違いと言えば、鉄球の有無と肌の色ぐらいかもしれない。
そういえば頭が悪いところも一緒だな、等と思いつつ、まゆ子はクロディーヌが教師に小突かれるのを眺めていた。




