おまけ3:ウルリッヒとルロイ
その気まずい出会いは、平日の昼下がりに起こった。
仕事を終え、街をぶらついていたウルリッヒは、同じくあてもない様子の少年と鉢合わせた。
どことなく疲れた顔の少年に、見覚えがあった。
ウルリッヒは顎を撫で、しばし考えた。
「君は確か、ルイージくん」
「……ルロイです。覚える気ないでしょ、あんた」
女の子からさぞかしもてそうな、整った顔を盛大にしかめてルロイがぼやく。
「悪ぃ、男の名前覚えるのが苦手なんだ」
きりりと良い顔で、ウルリッヒは朗らかに謝った。
ルロイはため息を吐く。
「そんな感じはしてますよ。っていうか、昼間から何ぶらついてるんですか」
「仕事上がりだよ。君こそ学校、いいの?」
「……まだ停学中なのもので」
「そりゃ失敬」
眉をしかめ、ウルリッヒは肩もすくめる。
それきり、沈黙が漂った。
どうしたものか、とウルリッヒはくすんだ金髪をかき回す。
「……俺、あんたより詳しいですから」
「ん?」
最初に口を開いたのは、ルロイであった。
ルロイはキッと、ウルリッヒをにらむ。
その顔には、ある種の決意がにじみ出ている。
「俺、きっとあんたより、マユコに詳しいですから」
どうやら宣戦布告、であるらしい。
適当に激励でもしようか、とも考えたが、少し面白くなかった。
それに嫌われると、かえってちょっかいを出したくなるのがウルリッヒであった。
だから彼はいつものように、人の悪い笑みを浮かべる。
「残念。俺もあいつには詳しいんだよ。何せ、あいつが角生えてた頃からの付き合いだからな」
「へっ、角……?」
束の間、ルロイの顔から険が取れる。ぽかん、とした顔は少年そのものだった。
「そう、角」
ウルリッヒは出来るだけ真面目ぶった表情で、重々しくうなずいた。
その表情を眺め、額に手を当て、ルロイはしばし黙考する。
「……マユコは、昔、羊か何かだったんですか?」
「君、あいつに詳しいんだろ? 自分で訊きなさいよ」
わざと素っ気なく、そう返す。
少々大人げないかもしれないな、と思わなくもないウルリッヒであった。




