おまけ2:まゆ子とイルーネ
学校からの帰り道のことだった。
イルーネが二つ目のクレープをぱくつきながら、にこにこと笑う。
まゆ子は喜色満面なその様子に、首をかしげた。なお彼女の口元には、カスタードクリームがついている。
「何やら嬉しそうだな、イルーネよ。クレープがそれほどまでに美味であったか?」
「いいえ、クレープはいつも通りの美味しさでした。実は……」
一旦言葉を切り、もじもじとした末、彼女は一際明るい声音で言った。
「トビー君が、マユコちゃんとも一緒に遊びたいな、と言ってくれたんです」
「ほう。トビーとな」
まゆ子の口元についたクリームを拭ってやりながら、相変わらずイルーネはご機嫌な様子で続けた。
「一緒に映画行きましょうよ。マユ子ちゃんが好きそうな、戦争映画を見つけたんです。ラストシーンで、兵士たちが血みどろの殺し合いをするそうですよ」
元魔王であるためか、まゆ子は血の気が多い。
故に、アクション映画や戦争映画での、切った張ったの大立ち回りが大好きであった。
「ほほう」
イルーネの提案に、まゆ子もニヤリと笑う。
あ、この笑い方、ウルリッヒさんに似てるかも、とイルーネはひっそりと考えた。
その後も和やかに、休日の予定を語り合っていた二人だったが。
「ところでイルーネよ」
「はい」
「トビーとは、誰なのだ」
「はいっ?」
生真面目な顔での質問に、イルーネは目を見開いて大きくのけぞった。
次いで、両手を握りこぶしに変えてまゆ子へ詰め寄る。
「ひどいです、マユコちゃん! トビー君はわたしのボーイフレンドです! 召霊夜でも会ったじゃないですか!」
「お、おおう、すまぬ……」
そういえば、あの眼鏡はトビーという名だったのか。
今更ながら、まゆ子はそのことに気が付いたのであった。




