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貧弱魔王さま、乙女生活を謳歌する  作者: 依馬 亜連
本編

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37/43

37:魔王さまと祭の後

「あー、怖かったです」

 膝を抱え、お行儀悪く地べたに座り、イルーネは疲れた顔で微笑む。

 彼女のパートナーも隣に腰掛け、しみじみと頷いていた。

 まゆ子も彼らの近くで横臥し、ぐったりしている。


 魔導の連続構築よりも、クロディーヌにしこたま殴られた傷が辛かった。

 首だけ動かせば、クロディーヌは担架に乗せられ、医務室へ運ばれようとしていた。意識は戻ったものの、本人に憑依されていた間の記憶はないらしい。嵐が過ぎ去ったような会場の光景を目の当たりにし、顔をひくつかせている。


 また、殴打によって出来た両こぶしの傷にも、彼女は仰天していた。

「私が人を殴ったですって? 嘘よ! スプーンより重いものを持ったことがない私が、殴れるわけないでしょう!」

 教師から事情を説明されても、彼女はぶんぶん首を振っていた。


──そんなわけあるか。貴様のパンチは、勇者級に重かったぞ──


 被害者であるまゆ子は脳内で、そうぼやいた。


 事の張本人であるルロイは、担任と校長、教頭および副校長に囲まれ、ガミガミとお叱りを受けていた。一ヶ月程の停学は間違いないだろう、と、お説教の内容から伺うことが出来た。


 教師をかつて、変身術で半殺しにしたまゆ子ですら、便所掃除で済んだのだ。まあ、退学とまではいかないだろう。


──それにしても、副校長と教頭の違いは何なのだ?──


 疲れた頭でどうでもいいことを考えていると、視界にイルーネの顔が映った。超至近距離で、彼女は気遣わしげに顔を曇らせている。

「マユコちゃん、大丈夫ですか?」

「仔細ない、案ずるな」

 友人の手前、空威張りをする。本当は寝返りを打つだけでも、腕やお腹がずきずきと痛んだが。


 腕を回して健康をアピールしたいところだが、ひねることすら重労働であったため、どうにか笑みだけでも取り繕う。


「私ならなんともない。クロディーヌの一打など、児戯にも等しい」

「だけど、ドレスも髪もグチャグチャですよ」

 自分がなったわけでもないのに、イルーネは打ちひしがれている。これだから、彼女はまゆ子の友人でいられるのだ。


 しかしイルーネの言葉に促されてドレスを見下ろし、続いて髪を触り、たまらずまゆ子も小さな悲鳴をこぼす。続いて痛みを忘れ、跳ね起きた。


 ドレスはレースが引きちぎられ、あるいは穴が開いていた。そして床を転がったため、砂埃にもまみれている。

 また、後頭部でお団子を作っていた髪を引っ張り出され、まるで南国の樹木がごとき様相となっていた。

「……ひどい」

 かそけき声で、思わず本音をこぼす。と、どっかりと、誰かが真横に腰を下ろした。


 潤む視界で見上げれば、蝶ネクタイを緩めるウルリッヒと目が合った。

 いつもの人が悪い笑みで、見返される。


「確かにひでえ有様だな。ドレスも頭も、グチャグチャじゃないか」

「うるさいっ」

「顔もぐっちゃぐちゃだな。あーあー、鼻水まで垂らして」

「うるさいと言っているだろう!」

 再び流れ出した涙と鼻汁をぬぐい、ぎゃんぎゃんわめいた。


「似合ってたのにな、もったいねえ」

 名残惜しさのこもった声音で、ウルリッヒがぽつり、と呟いた。

 たちまち、まゆ子は固まる。見開いた目で彼を見つめるも、思いの外、その顔は生真面目であった。


 真っ赤なまま硬化した後、へどもどと彼女は返した。

「……こ、ここへ来るまで……何も言わなかった、ではないかっ」

「そりゃ、言わなくても分かるかなーと思ったんだよ」

「分かるか、愚か者! もっと早くに言え!」


 腹立ちと気恥ずかしさ混じりにぺしん、と彼を叩くと、軽快な笑いが返って来た。

 と同時に、やや乱暴に頭を撫でられる。


「可愛かったぜ、マユコ」

 ど直球にほめられ、再び視界が潤む。すん、と軽く鼻をすすってまゆ子はそっぽを向いた。

「過去形で言うな、心外であるぞ」

「素直に喜べよ」

 明後日の方向をにらむまゆ子と、にやつくウルリッヒを眺め、イルーネはくすりと微笑んだ。


 散々に終わった召霊夜であったが、まゆ子の気持ちは案外清々しかった。

 誰のおかげでそうなのかは、魔王の沽券にかけて認めないが。

 意地っ張りで乙女心丸出しな魔王さまのお話は、ひとまずここで終了です。

 ここまで読んで下さって、ありがとうございました!

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