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貧弱魔王さま、乙女生活を謳歌する  作者: 依馬 亜連
本編

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36/43

36:魔王さまと泣き顔

 召喚術の匂いと共に、魔の物の匂いを、ルロイは身にまとっていた。

「愚かな。矮小なる存在で、魔界の存在を呼び出すとは」

 首を振り、まゆ子は小さく嘆息する。


 彼女が見据える中、会場入り口から魔物が転がるように乱入して来た。半透明の、人型を構築する精神生命体──舞踏霊(ウィル)だ。

 ドレスを着た女の姿を取る魔獣は、名前の通り踊りが好きな享楽的性質を持っている。

 この会場へ乱入させるには、ぴったりの魔物であるかもしれない。


 しかし、

「きゃああああ!」

「うわあああ、お化けだあああ!」

 魔導学校に通っているとはいえ、魔界を知らぬ生徒たちは恐慌に陥った。会場のあちこちで踊り狂う彼女たちに怯え、右へ左へと逃げ惑う。


「ちっ、軟弱な輩め」


──これだから、人間は平和ボケしている、と魔界の者に(そし)られるのだ──


 真っ青で、薄らと透けた不気味な外見と異なり、ウィルたちは弱い。強い光を向けさえすれば、あっという間に撃退できるのだ。

 ルロイが召喚に成功できる程度の魔獣、ということだ。


「いいぞぉ、もっとやれー! もっとめちゃくちゃにして、おれのほろ苦い青春を真っ白に塗り替えるんだー!」

 当のルロイは混乱する生徒や、右往左往する教師たちを見渡し、エヘラエヘラと笑っていた。諸々の精神的痛打により、やや頭が緩くなっているようである。


 ちょっとおかしくなっちゃった彼へ、金色の影がツカツカと走り寄った。逃げ惑う生徒たちを突き飛ばす影は、クロディーヌであった。


「何しているのよ、ルロイ! 私とダンスを楽しむ約束、忘れちゃったの?」

 ウィルを侍らすルロイへ、彼女は正面から噛みついた。途端、ルロイを囲むウィルたちの顔つきが凶悪になる。


──いかん。奴らには、踊りを好むこと以外にも特性が……──


 剣呑な魔獣の表情に、まゆ子はざっと青ざめる。

「ウィルを刺激するな! この者達には!」

 ヒールを脱ぎ捨て、クロディーヌへ駆け寄った。

「この者達には、人へ憑依する特性があるのだ!」


 そう、光から逃れるため、人間の体内へ寄生するのだ。そうすれば真昼間から踊り狂えるし、人間界での生活にも困らないし、ウィルたちにとっては良いことづくめなのである。


 しかしまゆ子の叫びは、一拍ほど遅かった。

「それなのにいきなり消えちゃうし、こんなわけわかんないお化けは呼び出すし、あなたって──ぐえっ」

 大口を開けて怒鳴りつけていたクロディーヌめがけ、一体のウィルが突っ込んだ。体を細長く伸ばし、口腔から体内へと侵入する。


「クロディーヌ、さっさと吐き出さぬか! 喉に指を突っ込め!」

「君ね、飴玉じゃないんだから」

 絶叫するまゆ子へ、いつの間にか隣を走るウルリッヒが呆れ顔で返した。


 ウルリッヒの指摘通り、胃カメラよりも俊敏に潜りこむウィルを追い出せるわけもなく、クロディーヌはむせこむ間もなく彼女を飲み込んだ。

 飲みきったところでガクン、と彼女の頭が落ちる。ゆらゆらと、体はわずかに揺れていた。

 嵐を予感させる、物言わぬ姿であった。


「クロディーヌ……?」

 さすがに憑依するとは思っていなかったらしく、ルロイも真顔に戻る。

 追いついたまゆ子は彼とクロディーヌを見比べ、深く、深く息を吐いた。


「こうなっては骨が折れるぞ、ルロイよ」

「それって、どういうこと、なんだよ? 助かるんだろ?」

 事の重さを理解したと見えるルロイの額に、ねっとりとした汗が浮かぶ。


 あくまでも冷やかに、まゆ子は彼を見上げた。

「助けるにせよ、一筋縄ではいかぬに決まっているだろう。この、愚か者が。何せウィルどもは、光の届かぬ体内奥深くに──きゃうっ!」

 お説教は、途中で途切れた。


 だらりと垂れ下がっていたクロディーヌが、やにわに顔を持ち上げた。

 そして俊敏な動きで、まゆ子目がけて突きを繰り出したのだ。


 尻もちをついてそれを回避しながら、まゆ子は裏返った悲鳴を上げる。

「何故、何故、何故我を狙うのだ! ルロイを襲うのが定石ではないのか!」

「本体のクロディーヌ嬢から、嫌われてるせいじゃないの?」

 紙一重で殴打を回避するまゆ子へ、ウルリッヒは能天気に笑った。


「それにしてもいいパンチを出すじゃないか。女にしとくには勿体ないぜ、このお嬢さん」

「褒めている場合か!」

「だって君、魔王だろう? 痛いこと平気ってか、好きなんじゃないの?」

「我は苦痛を与える側であって、受ける側ではない! 痛いこと、嫌いに決まってるでしょ!」


 マウントを取られたまゆ子は、降り注ぐ拳を交差した腕で防ぎながら、涙声で反論する。

「早く助けぬか、下郎め!」

「そんな言い草ってある? もっと可愛くお願い出来ないの?」

 腕を組み、ウルリッヒはにやにやと傍観している。


 彼の無茶な注文に、まゆ子の視界がぐにゃりと潤んだ。

「可愛くなど……できるかぁぁ! うわぁぁぁん!」

 まゆ子は元魔王であることも、現在十六歳であることも忘れ、盛大に泣いた。まるで赤ん坊だ。


「……ブサイクな泣き顔だけど、おまけで許してやるよ」

 泣きじゃくる彼女へ苦笑一つ。


 ウルリッヒは櫂を出現させ、振りかぶったそれでクロディーヌの背中を一発殴りつけた。

「ぐげぇっ」

 濁点だらけの汚い悲鳴が、クロディーヌおよび体内のウィルから発せられる。


 冥府直伝の一打はやはり堪えたのか、耐え切れずにウィルはしゅるしゅると這い出てきた。

 そこへ閃光が襲う。


 ズタボロのまゆ子が構築した照明術式の特大版によって、ウィルの体は包み込まれた。

 焦げ付くような音を立てて、彼女は消滅する。


 荒い息のまま、まゆ子は未だウィルを控えさせているルロイへ上半身を向ける。続いて右手をかざした。左手で、頬を伝う涙を拭い取る。

「魔王を、舐めるでない、この三下風情がぁ!」

 再び術式を組み上げ、ルロイを囲む四体のウィルを消滅させる。


 そして、魔王はよろよろと立ち上がった。立ち上がり、叫んだ。

「ウィルの弱点は光ぞ! 照明術式で応戦せぬか、貴様らぁ!」

 まず教師が。そして生徒たちが、その胴間声にハッとなる。


 ここからはあっという間。

 さすがは魔導に慣れた人間たち。正気に戻りさえすれば早いもので、会場を飛び交うウィルを追いかけ、光を当てて処理していった。

 騒ぎになったのも早ければ、鎮圧も早かった。


 まゆ子も打ち身だらけの体に鞭打って、やけくそ気味にウィルたちを抹消していく。

 暴れ回った彼女たちのせいで会場はボロボロになったものの、どうにか穏やかさが戻った。

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