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貧弱魔王さま、乙女生活を謳歌する  作者: 依馬 亜連
本編

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31/43

31:魔王さまと土下座

 ウルリッヒは珍しく、引き締まった表情でソファに腰掛けていた。

 深々と座ってだらけるでも、足を組んでふんぞり返るわけでもなく、両腕を膝に乗せ、やや前傾気味で真正面を見据えている。


 生真面目過ぎる紅茶色の目が見下ろしているのは、床に座るまゆ子であった。

 こちらは陰鬱な顔で、埃っぽい床の上にて正座を作っている。


 時計の秒針が一周する間、二人は沈黙を守っていた。

 最初に口を開いたのは、ウルリッヒであった。


「最近、ご近所さんから妙な相談事を持ちかけられます」

「……はい」

 敬語が怖い、とまゆ子は思ったが、素直にうなずくだけにとどめる。


「夜寝ていると、妙な夢を見るそうです」

「……はい」

「夢の内容は、相談者全員が一致しました。大きな角を生やしたマッチョの魔族から、『うぬは力が欲しくないか? 我の後継者にならぬか?』と誘われるそうです」

「……はい」

「なお、この夢を見るのは、決まってラグビー選手やボクサーなど、いい体をした男ばかりです」

「……はい」


 らちが明かない、と判断したのだろう。

 ウルリッヒはソファから立ち上がり、まゆ子の前へ出た。


 びくり、と彼女の細い体が飛び跳ねる。

 彼は身を屈め、視線をそらすまゆ子をのぞきこんだ。


「夢を見させているのは、君だろう」

「何のことやら、我には皆目……」


 半笑いでごまかそうとするが、頬をがしっと掴まれる。

「ふげっ」

「ごまかせると思ってるのか? 君がマッチョ教信者だってことは、既に調べが付いてんだよ」

 冷え冷えとした視線と一瞬目が合い、まゆ子は無意識の内に姿勢を低くした。


「……すまぬ、ほんの出来心なのだ」

「出来心で、付近一帯のマッチョ全員をナンパしたわけか」

「す、す、すまぬ! 夢に介入できる術式を発見し、嬉しくなったのだ!」


 おでこも床へこすりつけた土下座スタイルのまま、半ば呆れるウルリッヒへ詫びるのであった。

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