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貧弱魔王さま、乙女生活を謳歌する  作者: 依馬 亜連
本編

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28/43

28:魔王さまとシャワー

 今日はずいぶんと暑かった。

 まゆ子は家に戻るなり、トイレ兼浴室へと駆け込んだ。

 汗でべたつく体を、一刻も早く洗い流したかったのだ。


 夏芽家の浴室はトイレと一体になっている、いわゆるユニットバスだ。小ぢんまりとしているが、清潔に保たれている。

 お風呂とトイレの掃除は、まゆ子の担当なのだ。


「水回りが淀んでいては、悪しきものを呼び寄せるのでな」

 誰に言うでもなく、まゆ子は得意げに微笑する。存外魔王は信心深いらしい。

 また、本人が誰よりも邪悪な存在であることに、未だ気付いていないようだ。


 まゆ子はむんずと制服の上衣を掴み、中途半端にボタンを外したまま、それを強引に脱いだ。

 父と二人暮らしであるが、浴室の鍵はかけていない。気遣い屋の父は、どんな時でもノックをするのだ。


 つまり、こちらから気を使う必要はない、ということだ。

 続いてスカートも脱ぎ、脱衣カゴへ制服を一揃い放り投げる。


 そこでガッコン、と扉が開かれた。

 半裸のまま、まゆ子は固まる。扉を開いた主と、ばっちり目が合う。

 紅茶色の目も、真ん丸になっていた。


「何故、貴様がここにいる!」

 口調は重々しいが裏返った声音で、まゆ子は己の体を抱きしめて叫んだ。


 ウルリッヒも無精ひげの生えた顎を撫で、苦笑する。

「お義父さんと外でばったり会って、夕ご飯をご馳走してもらうことになったんだが……君、個性的な柄の下着を着てるな」


「うるさい! まじまじと見るな! ばかたれ!」

「カモノハシって」

「イルーネが選んだのだ! 文句でもあるのか、この野郎!」

 デフォルト化されたカモノハシ柄の下着を隠して、地団駄を踏み鳴らす。


 見ようによっては、カモノハシも可愛い、とは言えないこともない。後ろ脚の爪に、毒があるけれど。


「はいはい、悪かったよ」

 にやにや笑いのまま、ウルリッヒは回れ右をする。

いや、しようとして途中で引き返した。

 そして改めて、まゆ子を見下ろす。


 ぎくり、と彼女も肩をいからせる。

 服を着ていないので、心身ともに心許ない。

「……なんだ」


 低い声で問えば、いや、とウルリッヒはためらいがちに顎を撫でる。

「君、魔王だったんだろう? 魔導の力でそこを、どうにかしないのかな、と思って」

 指をさされ、まゆ子はしかめっ面となる。

「親から授かった体ぞ? みだりに手を加えるは愚行よ」


 そして、とてもとても薄い胸を、何故か誇らしげに反り返した。

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