25:魔王さまとルロイ
ルロイ少年には、好きな女の子がいた。
東洋人らしい儚げな外見で、マフィアのボスのような喋り方をする少女。
つまりはまゆ子が、ルロイ少年の恋する相手であった。生憎、隣の席に座っているというのに、まゆ子に気付く気配はない。
それでもルロイは幸せだった。
時折、一人称が「我」になったり、「力こそ正義!」、「力パワーだ!」などと叫ぶまゆ子だが、そんなところもひっくるめて好きだった。
一目惚れ、なのだ。
友人たちからは
「さすがにマユコは、どうかと思うんだ。いや、パッと見はまぁまぁだよ? でも、さぁ……ほら、オッサンくさいじゃん」
などと苦言を漏らされているが、彼は全く気にしていない。
家庭科の授業が行われている今も、隣を盗み見ては、ひそやかに幸せを噛みしめる。
そしてちらり、とまゆ子が取り組んでいるプリントも覗いた。
現在生徒たちは、教師が配ったプリントの上に「理想の間取り」を描いている最中だ。
ルロイもプリントに、フットサルのコートを備えた三階建ての間取りを描いている。
本当はサッカーコートが良かったが、さすがに大きすぎる。
さて、まゆ子はどんな間取りを描いているのだろう。ワクワクとした気持ちで、几帳面に線引きされた図面を見る。
「拷問部屋」、「実験室」、「玉座」、「贄の間」……間取りには、そんな説明書きが踊り狂っていた。自宅というよりも、悪の組織の秘密基地である。
まゆ子はルロイの視線に気付く様子もなく、真剣に「武器庫」も書き足していた。
ちょっとどころではなく、色々と大きく軌道が逸れているまゆ子だが。
それでも、ルロイ少年は彼女のことが好きだった。




