表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貧弱魔王さま、乙女生活を謳歌する  作者: 依馬 亜連
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/43

23:魔王さまとご褒美

 屈辱であった。

 ウルリッヒに依頼をしたのは、確かにまゆ子自身だ。

 おかげで父に取り憑いていたらしい幽霊も払えたので、結果としては万々歳だ。


 だが、まさか謝礼の代わりに、エプロン姿で手料理を作る羽目になるとは思わなかった。

 しかも、真っ白でフリフリとした、非実用的なエプロンだ。彼はどこで、どんな面を下げて、こんなものを買ったのであろうか。いや、別に知りたくはないのだが。


 このような格好をするぐらいなら、貯金を全て明け渡す方がずっとましである、とも考える。

──魔王を虚仮にした報い、必ずや晴らす!──

 スパニッシュオムレツを作りながら、心中で呪詛を吐く。

──おのれウルリッヒ、おのれウルリッヒ、おのれウルリッヒ……──


 それでも綺麗な円形のオムレツを作っているのだから、習慣とは恐ろしい。


「魔王さまの割に料理上手だよな、君」

 探偵事務所の小さな台所で格闘するまゆ子を、ウルリッヒは興味深そうに眺めていた。


 ちろり、と横目でねめつける。

「我は民の(しるべ)、このような卵料理など造作もないことよ」

 冷蔵庫にもたれ、ウルリッヒは嫌みに笑う。

「それなら、もっと面倒臭い料理を頼んでやりゃ良かったな」


──嫌な奴、ウルリッヒ。嫌な奴、ウルリッヒ……嫌な奴、嫌な奴、やなやつ!──

 呪詛のバリエーションが増えた。


 付け合せのじゃがいもサラダを混ぜる手つきも、いささか乱暴となる。


 鬼気迫る表情で木べらを動かす彼女を見下ろし、ウルリッヒの笑みが変わった。

 年齢相応に好色な、実に人間味あふれる笑みだ。


「ところでさ」

「何だ。格別の慈悲で以って聞いてやろう、手短に言え」

「君、危機感ないの?」

 言っている意味が分からず、まゆ子は手を止めた。そして、振り返る。


 俗に塗れた笑顔のウルリッヒと、ばっちり目が合った。

「だからさ。俺みたいな独り身の男の家──っつーか事務所だけど。とにかく上がり込んで、怖くないの?」

「はっ」

 今度はまゆ子が、鼻で笑う番だった。同時に、右人差し指が円を描く。


 素早く術式が組み上げられるや否や、それはウルリッヒ目がけて飛びかかった。

「おお」

 小さく歓声を上げた彼の腕が、頭上高く引っ張り上げられる。そのまま、中空に縫い付けられた。


 捕らえられた宇宙人のようなウルリッヒを、まゆ子が悪意たっぷりにせせら笑う。

「見たか。これぞパパ直伝の、捕縛術だ」

「君のお父さん、本当にただの会社員?」

 催涙術に続いて魔導の餌食となったウルリッヒは、呆れた表情を浮かべている。


「愚問なり。パパは由緒正しき社畜ぞ。ふふ……どうしてくれようか」

 腰に手を当て、まゆ子は精一杯の悪役面で笑んだ。


 そして、大きくのけぞり、哄笑する。

「ハハハ、愚か者め! 我を羽交いにしたつもりだろうが、捕らえられたるは貴様の方ぞ! ざまあみろ、このクソボート野郎め! フワハハハハ!」


 両腕を拘束されたまま、ウルリッヒもつられたように笑う。

「そうかもな、アハハハハ──ふんっ」


 気合一発。


 彼の両手首に絡みついていた術式が、破裂音を伴って打ち破られた。

 高笑いの姿勢のまま、まゆ子は固まった。


 痛がる様子も見せず、ウルリッヒは悠然と仁王立ち。

「これでもまだ、冥府の役人だもんでね。人間の術式ぐらいなら、どうとでもなる」

 続いて櫂を出現させ、猛獣の笑みを浮かべた。

「それで、どうして欲しいんだ?」

「あうっ……」

 青ざめ、まゆ子は脂汗を流している。


 狭い台所の隅まで追い込み、ウルリッヒはチクチクといじめた。右手はチィチィパッパと、長大な櫂をリズミカルに振っている。


「痛くして欲しいか、それとも、痛気持ちよく欲しいか?」

「い、いいい、痛くする方を所望する!」

 顔を土気色に染めたまゆ子が、声を絞り出すように絶叫した。


 結局まゆ子は、デコピンをお見舞いされるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ