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貧弱魔王さま、乙女生活を謳歌する  作者: 依馬 亜連
本編

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21/43

21:魔王さまと椅子

 クロディーヌは、まゆ子達の学年における女王蜂だ。

 取り巻きにかしずかれ、学校というカースト制度の頂点に君臨している。

 横柄な態度がまた、その女王振りに拍車をかけていた。


「私、喉渇いちゃった」

 そのクロディーヌが金髪をかき上げ、よく通る声を発する。

 続いて、教室の隅でまゆ子と談笑する、イルーネに視線を縫い付けた。


「ねえイルーネ。ジュース買って来てくれない?」

 ぎくり、とイルーネの体や表情が強張る。


 怯えるその様に、取り巻きたちはクスクスと笑った。

「ほらー、クロディーヌのお願いよー」

「早く買って来なさいよ。それとも一人で行けないの?」

「眼鏡の魔女っ娘と、一緒に行って来たら?」

「何が魔女っ娘だ、私を軽んじるな」


──魔女ではなく、魔王と呼べ──

 内側も外側も不機嫌に、まゆ子が勢いよく立った。


 運動神経が悪いためか、はたまた運が悪いためか、立ち上がった瞬間に机で大腿部をぶつけたが、彼女は動じずクロディーヌを睥睨する。


「上に立ちたいならば、貴様が率先して動け。ふんぞり返っているが故、乳と態度ばかりが膨張し、脳と足が痩せ衰えるのだ」

「人のスタイルを、よくそこまで嫌味に褒められるわね」

「案ずるな、褒めてなどおらぬ」

 胸と顎を突き出した体勢のまま、クロディーヌのこめかみに筋が浮き立つ。


 ぎこちない動作で顔を傾け、彼女はまゆ子と向き合った。

「……本当に、嫌味なチビね」

「私はエネルギーを、無駄に使わぬのだ。コンパクトに、コスパ良く生きているので、な」

 腕を組み、まゆ子もせせら笑う。


 取り巻きたちも不穏を察知し、さざ波のごとく遠ざかった。二人──というかまゆ子の術式に巻き込まれたことが、一度や二度ではないのだ。


 臨戦態勢に入った二人に、イルーネも慌てる。

 相変わらず、彼女たちの沸点の低さには舌を巻く。


 と同時に、これではいけない、と焦った。

 いつも彼女の代わりに、まゆ子は怒ってくれるのだ。そしてやり過ぎては、教師に叱られている。


 このままずっと彼女の陰に隠れ、助けてもらっていては駄目だ。

 イルーネも、椅子を蹴倒して立ち上がる。


 真っ赤な顔で、あわあわしながら彼女は叫んだ。

「やめっ、やめて下さい!」


 しかし叫んだイルーネへ、クロディーヌが詰め寄った。

「何、やるの? やるわけ?」

 捕食者の目と、視線がかち合う。


 途端、イルーネの頭が真っ白になる。恐慌に陥った視界の隅に、転がった椅子が入り込む。

 パニックになったイルーネはそれでも、なんとかしなきゃとおぼろげに考えた。


 そして半ば無意識に手をかざし、でたらめに術式を構築する。

 爆発音と共に、めちゃくちゃな術式が解放された。


 そして、クラスメイトたちの姿が消え、代わりに色とりどりの椅子が現われた。

「あれ、あれあれ……?」

 唯一の人影であるイルーネは、椅子の群れを見渡して目を丸くする。


「何してるのよ、あなた! 変身術を人にかけるなんて、ズルよ!」

 目の前の皮張りソファが、甲高い声で叫んだ。


 聞き覚えのある声に、ますますイルーネの目が大きく、丸く見開かれる。

「あの……クロディーヌさんですか?」

「そうに決まってるでしょ! この高級感から察しなさいよ!」

 どすんばたんと上下して、ソファが怒鳴った。


 どうやら視界に見とめた椅子を、咄嗟に術式へ組み込んだらしい。


 しかし、まさかクラスメイト全員を変身させられるとは。

 己の潜在能力に困り、イルーネは指をこねこね絡ませた。


 そして後方を盗み見る。

「それじゃあ、この大きなのは……」

「うむ、私だ」


 可愛い声で重々しくうなずいたのは、ドクロがいたるところにあしらわれた玉座であった。


 親友らしき巨大玉座を見上げ、イルーネの眉が八の字に垂れ下がる。

「まゆ子ちゃん、何だか悪そうです……魔王の座る椅子みたい」

「そ、そうか?」

 禍々しい玉座から、ぶわりと脂汗が浮き上がった。

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