日常3『国王様と天麩羅』
「さぁ、今日の晩御飯は天麩羅だ!!別に洒落とか狙ってる訳じゃねぇ!!」
「何をいきりな叫んでいるんですか。そして洒落だとかなんとか、一体何を言ってるんですか」
半眼で見て来るアリシアを華麗にスルーして、揚げたてほやほやの天麩羅が乗った大皿を、机の上に並べて行く。
料理が出来ないアリシアに変わり、毎日の食事を作るのは俺の担当だ。国王様なんだからわざわざ料理しなくても料理人とか一杯いるんだが、俺は根が小市民なので料理も自分でするのです。
「まぁ細かい事は気にせず、さっさと食べようぜ!!揚げたてが一番うまいんだから!!」
「そうですね。あ、お茶淹れますね」
「――おう、よろしく」
一瞬紅茶色をした凶器の事を思い出したが、流石にそう何度も同じような悪戯をして来る事は無いだろう。普通の人が食らったら死ぬ細工を、悪戯と言っていいのかは至極疑問だが。
「――はい、お茶が入りました」
待つ事しばし、急須と二つの湯呑が乗ったお盆を片手に、アリシアが台所から戻ってきた。
急須と湯呑という組み合わせに、湯呑の中で美しく揺らめく若緑色の液体は――
「和食ですし、御劔様の故郷から取り寄せた玉露で冷茶を淹れてみました」
「おぉ!!玉露か!!ちょい久しぶりだな!」
ちなみに俺の故郷というのは、地球にある日本の事だ。何故日本生まれの俺がこの世界にいるのかとか、何故玉露を取り寄せられたのかとか色々疑問はあると思うが、その辺は追々説明するとしよう。今は天麩羅と玉露である。今この瞬間に限り、世界は天麩羅と玉露を中心に回っていると言っても過言ではない。凄いな天麩羅と玉露。
「それじゃあ食べようぜ!!いただきます!!」
「はい、いただきます」
とりあえず適当に、今旬のかぼちゃっぽい野菜の天麩羅を一口。
「うん、我ながら上出来だ!!美味い!!」
そして玉露を一口。
「――ぶふううううううう!?」
「うわっ!?汚っ!?またですか御劔様止めて下さい汚いですというか今回は天麩羅が混じってて割とマジで汚いです」
「られのへいら!!られの!!」
痛い痛い口の中が痛いマジで痛い低温火傷だこれ。
「魔術を使って見た目は変えず、温度だけを-1000℃まで下げてみました。だから冷茶だと言ったでしょう」
「冷たすぎるわ!!」
あっという間に再生して喋れるようにはなるが、治るまでの数瞬の痛みが半端じゃない。何が楽しくて夕食時にまで痛い思いをしないといけないのか。
「そうですね、《玉露色の死刑判決》と名付けましょう」
「そしてこいつは人の話しを聞いてないしどう見てもお後よろしくないし」
言ったところでどうにもならないのは分かっているので、とりあえず魔術で玉露の温度を正常に戻し、食事を再開する事にする。
――もぐもぐ、ずずー
「あ、干渉遮断の術式も組み込んであるので、温度戻す時は概念魔術とか使って遮断ぶち抜いて下さいね」
「ぶふううううううう!?」
言うのが遅えよバカ野郎。
こうして俺は、短時間で口内を2度低温火傷するという、意味の分からない体験をした。
とてつもなく希少な体験だが、とてつもなく無意味である。