日常1『国王様と紅茶』
「ふぃー、やっと終わった……」
取り出した懐中時計で時間を確かめると、既に日付が変わっていた。完全に昼間暇だとか言ってだらけたツケが回ってきた結果だが、後悔はしていない。反省もしていない。
「反省して下さい殴りますよ」
と、いつの間にやら近くまで来ていたアリシアの一言と共に、俺は"ドヴォシャァ!!"みたいな効果音を顔面から発しつつ吹っ飛んだ。
「いや、殴ってるから、超殴ってるから」
人の心を読んだ上にいきなり顔面を殴るとか、なんて悪い奴なんだ。主を、そして夫を労おう的な気持ちは無いのか。
「あります、超ありますよ。ということでこちら、御劔様のために淹れた紅茶です。どうぞどうぞ」
「ん?珍しく気が利くじゃないか」
「珍しくは余計です」
ぷくーと可愛らしく頬を膨らませながらアリシアが差し出してきた紅茶を受け取り、有難くいただくとする。
如何に料理がからっきしダメなアリシアでも、紅茶を淹れる位は出来る。そう、"出来る"のだ。何が言いたいかというと、出来たからと言って、"するか否かは本人次第"ということである。
「ぶふううううううう!?」
「うわっ、汚っ!いきなり吐き出さないで下さいよ汚い」
蔑んだようなアリシアの目の中に、悪戯が成功した子供の様な光が宿っている事を俺は見逃さない。しかし、今は残念ながらそれを指摘してる余裕はなかった。
「あっふ!?いらいいらい!!ひはがいらい!!」
ヤバい、口の中を火傷してまともに喋れない。喋ると口の中が痛いとかいう次元じゃなく、口内が融解してて喋れない。"口内が融解"とか、普通に生きてたら自分が言うどころか見ることも聞く事もない単語だぞ。
「魔術を用いて、見た目は変えず、温度だけを1000度超まで高めてみました。完璧だったでしょう?」
「ふざけんな!!」
口内が再生し喋れるようになったので、まずは罵倒を飛ばしておく。夫であり主でもある人間の口内を融かすとか、正気の沙汰じゃないと思う。
「いかに俺が不老不死って言っても、やって良い事と悪い事があるだろう」
「そうですね《紅茶色の死刑判決》と名付けましょう」
「人の話しを聞けよ!!」
後何だそのカッコいい名前は。
「まぁまぁまぁまぁ、そうイライラせずに。――あ、そんな時はこれ!《紅茶色の死刑判決》を一杯飲むだけで、あらゆる柵から解き放たれて自由に――」
「いやお前それ死んで天国行ってるだけだろう!!いやおい!!ふざけんな!近づけるな!いや近い近いマジで止めてタイムタイムぎゃああああああああ!!」
適当に区切り良く1000度としたけど、それで人の口内は溶けるのかは分からない。そんな感じで、また次回お会いしましょう。