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記憶喪失の俺が魔王!?  作者: 野山日夏
第一章 目覚め
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第七話

 とはいえ、余り興味がないことがどうしても頭に入らないのは、最早世の真理とでもいうべきだろう。当然ヴィルダーにもそれは当てはまる。一国の王として自らの治める土地に対する興味を持つべきであることは分かっているのだが、どうにも一から覚えなければならないとなると意欲は自然勢いよく減退せざるを得ないというか。

 結局ヴィルダーに出来るのは、ただ聞いている内容が右から左に抜けていってしまわないように必死にその尾を掴む努力をすることだけだ。しかもそれですらも、小難しい話を聞くと自然に途切れてしまう集中力のせいで徒労に終わろうとしていた。つい意識がどこかを彷徨ってしまい、は、と気がつくと話が先ほどとは違う内容に飛んでしまっているのだ。

「そろそろ終わりにしましょうか」

 ヴィルダーのそんな様子に気がついたのか、アリエラはそんな言葉と共に、地図を片づけるべく地図に手をかける。反射的にまだ何とか頑張れると主張しようとしたヴィルダーだが、アリエラの発言にやっと終わると思ってしまった途端にどっと疲れを感じ、その言葉を発することはなかった。

「うん、それでお願いしようかな……」

 代わりに口から出たのは、元々言うつもりだったそれとは正反対だというのだから、ヴィルダー自身情けないと思ってしまう。だが幸いなるかな、疲労を認識した以上、流石にもう己の体力が限界に達してしまっているのだと、ここ数日の生活からヴィルダーはきちんと認識できていた。

 ヴィルダーの体力は、当然まだ十分には戻っていない。どうやら気力だけでヴィルダーは何とか保っていたらしい。ここに来てアリエラの言葉で完全に集中が切れてしまい、そのせいで感じていなかった疲労がどっと表面に出てしまったのである。

 アリエラが話すのを終えた直後から疲れ切った様子を見せ隠そうともしないヴィルダーに、アリエラはくすくすと笑いを漏らした。ヴィルダー自身直前まで真面目な顔で話を聞こうとしていた人間が、先程まで見せなかった疲れた様子を見せればおかしくもなるかもしれない。

 だが、その心理が理解できるのと、自分が笑われたことを受け入れられるのとは全く別の物である。笑われたヴィルダーがうらみがましい視線を向けると、アリエラはすみません、と謝った。だが、それでもまだ目が笑っている。

 いつまで経っても笑い続けているアリエラに、非常にヴィルダーは怒りを覚えた。アリエラのような類稀な美少女にそんな風に笑われるととんでもなく腹が立つものなのだと、ヴィルダーはこのとき初めて理解した。

「アリエラ」

 笑うな、とそう言う意図を込めてヴィルダーが窘めれば、アリエラは何とか口を閉じて笑いを殺そうと努力している様子を見せる。けれど、それをすればするほどますますその顔に浮かぶ笑みが深まっていくのがヴィルダーの目にも明らかであった。笑うな、と言われれば言われるほど余計におかしくなってしまうのだ。

「すみません、でもさっきまで元気そうだったのに急に疲れ切ってるから……ふふっ、本当に気力で頑張っていたんだなぁ、って。ふふっ」

 とうとう口元の歪みがどうにもならなくなったのか口を手で押さえて笑いだすアリエラに、ヴィルダーは思い切り気分を害した表情を浮かべる。他人からここまで盛大に笑われていながらにして、気分がよくなる方がおかしいだろう。しかも、それが一応ヴィルダー自身あまり実感が湧いていないが、自分の部下という立場の相手なのだから尚更だ。

 しかしそのヴィルダーの機嫌の下降ですらも、この状況下ではますますアリエラの笑いを誘うばかりだった。

「く……っ」

 ついには笑い過ぎの余り息苦しそうにすらしだしたアリエラに、もう此方の知ったことではない、とばかりヴィルダーはふいとよそを向いた。ヴィルダーが一体何をしようが、今のアリエラの視界には一事が万事面白おかしく映るのに違いない。それを一々相手にしたところで、ヴィルダー自身無駄に腹が立つだけだ。ならば放っておいていずれ自然にアリエラの笑いが治まるのを待った方が遥かによいだろう。

 ベッドの上で沈黙を守るヴィルダーと、片づけようと地図を持ったまま笑い転げて悶絶しているアリエラ。今この場に誰かが踏み込んだなら、これが一体どんな状況なのか誰も理解できないことだろう。何しろ一部始終をこの目に入れているはずのヴィルダー自身理解できないのである。

 そんなことをぼんやりと思いながら、そろそろ疲れが本格的にその存在を主張し出したのでヴィルダーは目を閉じた。さっさと先程からヴィルダーを眠りの底へと引きずり込もうとする睡魔に身を委ねてしまおうと思ったのだ。

 結局、未だ笑い収まらぬアリエラが既にヴィルダーが眠ってしまったことに気がついたのは随分経ってからのことであり。そこに至るまでにアリエラは笑い過ぎで非常に苦しい思いをすることになったのだが、それはご愛嬌だろう。

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