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記憶喪失の俺が魔王!?  作者: 野山日夏
第三章 邂逅
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幕間二

 その翌日、機嫌の悪さを隠そうともしない村長に見送られながら、カトリーヌ達は村を一度出る。まだ数日この村に滞在するのだが、今日は一度問題の魔族の村の偵察をすることになっているのだ。それから今後の対応を決める、とハインツが昨日の騒ぎの後で村長と話をつけていた。対応といっても、見逃すなどという選択肢はそもそも存在しない。どのように魔族の村を襲撃するかであるが。

 昨日あんなことがあったというのに、まるで心を入れ替える様子もなく、相変わらず村長はカトリーヌの気に食わない態度をとり続けている。さっさと皆殺しにして来いと言わんばかりの態度の村長に、カトリーヌは隙あらば噛みついてやろうかとさえ思っている。勿論比喩であるが。

 だがそれを昨日の一件からハインツも既に分かっているのか、朝からハインツはカトリーヌをしっかりと見張っているようで。少しでも暴れようとするものなら、すぐにでもカトリーヌを取り押さえるといわんばかりだ。

 仕方がなく、カトリーヌは大人しくしている。騎士などやっている男に力で敵うわけがないし、そんな男に取り押さえられるなどご免被りたい。

「それにしても深い森だな」

 言いながらきょろきょろと周囲を窺うのはハインツだ。

「見たことがない生き物がいそうですねぇ」

 それに賛同するのがメリー。因みに無言を貫くことでそんな話を下らないと切り捨てるのがカトリーヌである。

 今三人がいるのは、魔族らの暮らす村のすぐ傍にある森だ。この場所ならば魔族たちに気づかれずに近づくことが出来る上、万が一見つかったときであろうともこの少人数で逃げ出すときにも役に立つ。尤もその辺りの利便性はまま魔族たちも享受できることを思えば、森をこのままにしておくのもよくないのだろうが。

 村の人間にそれを言えば、同じ考えだったようで焼き打ちなどを考えているという返答を貰っている。

 そんな調子で森を行くが、植物が多いせいか随分と虫が湧いている。カトリーヌの周りにも今も無数の小さな虫が飛び交っていて、カトリーヌの視界を邪魔する。それを手で払うも、余り意味はない。

「ああもう、虫が煩わしい。呑気なことを言っていないでさっさと行きますわよ」

 まだのろのろと呑気に景観について話し合っている二人にそう言ってカトリーヌは先を急ぐ。村を離れてもうカトリーヌが村長に危害を与えることはないだろうとハインツの監視が緩んだのはいいが、だからといってこんな森に長々といたくなどない。さっさと魔族の村を見て、監視があっても虫がおらずカトリーヌの心境的に多少はましなあのライヒ国内に戻ろうと心に決める。

 そんなことを考えたところでそういえば、とカトリーヌの脳裏に疑問が浮かぶ。

 魔族の村、とはいうが、カトリーヌはそれがどんなものか見たことがない。そもそもカトリーヌらが見たことのある魔族というのは、わざわざ人間の国まで突入して来て暴れている魔族だ。魔族の領域に踏み込んだことのないカトリーヌにはまるでそれがどんなものか想像することができなかった。

 あの村の人間が『住処』などではなく『村』と形容していたのだから、そのように見える形態なのだろうが。

 そもそもにして魔族の容姿すら聞いていないことにはっとカトリーヌは気づく。

魔王に従う赤い瞳の種族を全て魔族と形容している。獣型であろうが人型であろうが、魔族は魔族。彼らは神を裏切った証に瞳が赤いのだということは、誰だって知っていることだ。だから魔族という言葉でひとくくりされる彼らに、他に容姿の特徴はない。精々人型ならば耳が尖っているだとかそのくらいだ。だがそれはエルフにも当てはまる特徴であるから、魔族の特徴だとはいえない。

 なお、黒はその不吉なイメージから魔族の色とされ、学のない人間の中には黒を持つ人間を魔族と迫害する者もいるが、それはまるで迷信だ。人間だって黒を持って生まれ出る者はいる。特に農村などにおいて、黒は迫害の対象となるようで、子供のうちに殺されることが多いことからあまり黒髪の人間は見られない。先の村だってそうだ。

 だが都市部であれば大人になるまで成長している人間も存在している。そして彼らに魔族特有の力の発現などは見られない。

 その魔族たちの暮らす場所が住みかではなく村、などと形容されるということはもしかすると敵は人型なのではなかろうか。

 思ったときにちょうど自分達のものではない話し声が聞こえ、三人揃って目線を交わす。あの村の人間はこの森まで入ってきはしない。それは昨日のやり取りからもすぐに分かった。ならばこの会話は魔族らの為しているもので、ということはカトリーヌ達のすぐ近くに魔族がいるのだろう。内容までは聞き取れないが、会話の片方を担っている甲高い声は子供のものだろうか。

 面倒なことになった、とカトリーヌは思う。

 人型であれ獣型であれ、魔族である以上カトリーヌは同情などしないし滅ぼすべきだと思っている。その辺りは勇者しか見えていないメリーも同じ意見だろう。だが勇者やハインツは違うようだった。魔族である以上倒すには倒すが、人型をしている者をどうにかするのは葛藤だか何だかがあるらしい。

 男という性別の人間全てがそういう割り切りが苦手なのか、それとも彼らが特殊なのかは分からないが、土壇場で何か甘いことを言われても困る。例えば子供をどうこうするのは可哀想だとかなんだとか。古今東西、敵の子供を哀れだからと逃がしてその子供に討たれる話は存在している。子供だからと油断すれば、それが将来大人になってこちらには及ばない力をつけることを忘れてしまう。

「魔族みたいだな。行くぞ」

 囁くハインツはしかしその勇ましい言葉とは違って、苦悶の表情をしている。相手が子供であることに気が付いているのだろう。悪い癖が出たようだ。この場にいない勇者はともかく、先の愚を犯しかねないハインツがおかしなことをやらかさないようカトリーヌは目を皿のようにしていようと思った。

 会話は二人分で、その上一人はまだ力ない子供。対してこちらの人数は三人となれば、脅える必要はない。驕らなければ確実に勝てるだろう。判断して気配も殺さず草をかきわけた先、そこにいたのは――。

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