表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶喪失の俺が魔王!?  作者: 野山日夏
第三章 邂逅
26/36

幕間一

 国境沿いの村に辿りついたのは、夜の帳が落ちようかという頃合いだった。だが村の雰囲気がどんよりとしているのは、単純に夜だからというだけでなく、すぐ傍にある魔族の村との諍いが原因なのだろう。彼らが先の見えぬ戦いに疲れ果てているのだろうことは、この村のことをよく知らないカトリーヌにも見て取れた。

 だが、だからといってどんな言動も許せるかといえば答えは否だ。カトリーヌ達を出迎えた下々は村にやってきたばかりの彼女らに向かって、やれ魔族を追い出せだの、やれ税が高いだのと好き勝手言い出す。しまいには、どうしてもっと早く魔族を倒しに来てくれなかったのか、とカトリーヌ達に向かって怒りだす始末。余りにも身勝手な彼らの主張に、気分を害してカトリーヌは顔を顰めた。

 そもそもこの村に来たのは、ハインツがどこぞの酒場でこの村に魔族の襲撃があると聞いてきたからだ。魔族に困らされている人がいるのなら手を差し伸べるべきだろう、というのがハインツの言だが、カトリーヌはそれに反対だ。

 ハインツがどう考えているのか知らないが、カトリーヌが神託で神から伝えられたのは、この勇者一行ならば魔王を倒すこともできよう、というそれだけだ。だから、その勇者を探せ、と。そこにはどんな魔族も倒せるだとか、この国の救世主となるだとか、そんな文言は欠片もない。

 だから、間違っても正義の真似ごとをするために、カトリーヌ達は組んでいるのではないのだ。大体にして、ただ国を守るだけならば、それは衛兵達に任せればいい。たった四人きりのカトリーヌ達が国中の平和を守れるわけなどないし、それが当たり前だと国民に思わせたってならない。

 今回は勇者もこちらに来ているかもしれない、とハインツが言うものだから渋々カトリーヌはこの国境沿いまで来ることを承諾した。そして訪れた先で視界に入るのならば、困窮している自国の民に何かしらの手を差し伸べるだけの懐の広さは、流石のカトリーヌとて持ち合わせている。

 そういうわけで、カトリーヌ達がこの村の問題を解決するのは飽くまでもボランティアというスタンスだ。それをカトリーヌ達がこれまで義務を怠っていたかのように言われるのはやはり気分が悪い。今まで流石に勇者一行を相手取ってここまで言ってくる村はなかっただけに、尚更だ。尤もそれは勇者のあの冷たい雰囲気も一役買っていたのだろうが。

「さっさと魔族を倒せ」

「勇者なんだからさっさと来てくれよな」

 とんでもないことを言い出す彼らに、神妙な顔でその話を聞いているハインツの頭は一体どうなっているのか。この場にいるのがカトリーヌ一人なら、即座にこの村を見放しているところだ。

 挙げた功績で曲がりなりにも男爵位を賜っているにも拘らず、自身が平民階級の出だからか、こういうときハインツは彼らに親身になって話を聞く。その姿勢がますます彼らをつけ上がらせるのだろうに。その辺りは王侯貴族として普段から悪意の中心にいるカトリーヌの方がまともにあしらえるだろう。

貴族の枠に入ろうというのなら、それらしく振舞えというものだ。

 案の定ハインツに文句を言っているうちに、興奮してきた男達が今度はメリーに視線を向けた。

「お嬢さん俺達を慰めてくれよ」

「可哀想なこの村の人間になぁ?」

「あの、困りますよぅ」

 それを目にして、この村は本当に不快だ、とカトリーヌは内心溜め息をつく。流石にここまでの事態は見たことがない。いつも男を惹きつけるメリーに腹を立てていたが、ここまで露骨に下卑たことを言い出せる男は流石に侍らせたくなどない。こんな男達は周りにいるだけでカトリーヌの価値を下げる。

「いいからいいから」

「いや、あの」

 苛々と腹が立つ。それでもいつもならメリーに全ての視線が向けられるため、傍にいるカトリーヌに直接的な被害はない。だからそれで終わりだったのだが、今日はそうは問屋が卸さなかった。

「あんたでもいいぜ? 神官様」

 メリーの周りに集まり過ぎた男達の中にはあぶれるものも出てくる。だからかそんなことを言い出す愚か者さえ出始めた。

 このメンバーに、カトリーヌは飽くまでも神託を得た一神官として参加している。だから一応神官服を身に着けてはいるが、その実カトリーヌはこの国の王女だ。それを下卑た欲の対象に、しかもメリーなどというただの子爵令嬢に劣るような言い方をされて気分がいいはずがない。しかもそれを口にした男の容姿が明らかに中よりも下であったことが、余計にカトリーヌを苛立たせる。

「わたくしを愚弄するような男は……」

 魔力を練りながら、カトリーヌは懐に入れていた杖を取り出す。カトリーヌの属性は光だ。水晶が先端に取り付けられた杖は、カトリーヌの属性と相性がよく、カトリーヌの力を強めてくれる。

「吹っ飛んで反省するがいいわ!」

 言って杖の先端を男に向けた。吹っ飛んでいく顔面偏差値平均以下男と共に、メリーに群がっていた男も吹き飛ぶ。あれでこの国最強の魔術師であるメリーだ。彼女得意の炎系が向けられなかったことから手加減ではされているのだろうが、それでもカトリーヌよりとんでもない一撃に違いない。

 天然の皮を被っているメリーはわたわたと暴発『させた』杖の先を見ては周囲に頭を下げてすみません、だとかなんだとか言っているが、カトリーヌからしたらわざとらしいことこの上ない。流石にそんな暴発するような杖の周囲によらないが、男達の興味はメリーから逸れていない。勇者以外の男に興味がないくせに、そういうところでかわい子ぶる辺りもカトリーヌからすれば腹立たしいの一言に尽きる。

 振り返れば村長とハインツが揃って真っ青になっているのが、おかしかったといえばおかしかったことか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ