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記憶喪失の俺が魔王!?  作者: 野山日夏
第三章 邂逅
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第一話

誤字訂正いたしました。内容に変更はありません。

ヴィルダーが学んだところによれば、これから向かう村は人間と魔族が長らく戦っている場所らしい。ヴィルダーが滞在していた屋敷もかなり人間達の国に近い位置にあるのだが、それから更に人間達の国へと寄って、勇者を輩出したライヒとこの国とが戦うちょうどその境界線だという。

そこを足がかりにこちらは人間の国へと攻めいるつもりなのだが、それを人間の方も必死に防いでいるために中々とっかかりが掴めない。上がいい加減痺れを切らしたために、今回の遠征となったのだという知識だけを何とか詰め込んでヴィルダーは今ワイバーンの背にいる。

「私のペットなんです。名前はアルノ」

 可愛らしく微笑んだアリエラに、ああやっぱり魔族のペットは魔族なんだ、と思ったものだ。紹介されたばかりのワイバーンは、黄土色の皮膚を持つ小型の竜だというが、それでも背丈はヴィルダーと同じくらい、両翼を広げればヴィルダーの倍はあろうかというほど。

 アリエラとヴィルダーがアルノに乗り、やはり共に行動することとなったダーレとゲルトルーデは別のワイバーンに乗っていた。やはり同じ色をしてアルノより一回り大きいかというそれ――そちらはアルロというらしい。アルノの兄弟だそうだ――を見て漸くヴィルダーはアルノが小型であると納得がいったが。

 空高いところでただ風景を見ているのも初めのうちは面白かったが、暫く同じ風景が続くとそれも飽きてくる。どちらかといえば荒廃した土地が多いようで、それもまた景色に飽きるのに一役買っていた。だものだから、退屈を潰すべくヴィルダーはアリエラに話しかける。

「アリエラは今から行く村に行ったことあるのか?」

 問いかけるとヴィルダーの顔のすぐ下にあるアリエラの頭が動いて、その度触れる髪が擽ったい。

突然だが、アルノはアリエラの言うことしか聞かないから、とアルノに普通にアリエラが乗り、ヴィルダーはアリエラの後ろに座っている。アルノは生物であり座りやすい座椅子などがついている訳もなく、体勢を安定させるために掴まることが出来る場所を提供してはくれない。従ってヴィルダーは安全の為に、アリエラを背後から抱きしめるような体勢でアルノに乗っているのである。

ヴィルダーとしてはそれだけでも厳しいのに、アリエラはもっとしっかり掴まってくれないと落ちてしまいますよ、などと口にしてヴィルダーに腕に込める力を増やせなどと恐ろしいことを言い出す始末。そうしないと悲しそうにするアリエラに結局彼女の言葉通りに体勢を取ったヴィルダーは、アリエラほどの美少女とそんな至近距離でいることに何かおかしな気分になってしまいそうで非常に困る事態に陥ったという次第である。

だものだから、ヴィルダーは出来る限りアリエラから視線を剥がそうとした。初めのうち風景に熱中していたのも、それが理由である。とはいえ、それは早々に潰えたのだが。

「ありませんよ?」

 そんなヴィルダーの葛藤などつゆ知らず、アリエラは振り返ってすら見せた。上半身だけで振り向いているとはいえ抱き合うような体勢に、ヴィルダーがあたふたとするのをアリエラは完全に面白がっている。薄々気が付いていたが、アリエラは完全に確信犯だ。ヴィルダーが何をあたふたしているのか分かっていてやっているのに違いない。

「私は余り魔王城から出ませんでしたから。最近はヴィルダーのおかげで少し遠出が出来ているんですよ」

 アリエラはそう言うが、それは本来なら魔王の右腕として城から出なくてよかったところ、ヴィルダーが怪我をしてあの屋敷で療養していたものだからわざわざそちらと城の行き来をしなければならなくなった、ということである。

「悪い」

 ヴィルダーが謝ると、アリエラは不思議そうに首を傾げる。

「何故ヴィルダーが謝るのです? 私は本当に感謝をしているんですよ?」

 にっこりと笑ってそう口にしたアリエラは、アルノに跨る体勢から少し身じろぎをして、ヴィルダーの方へと身体の向きを変える。ヴィルダーの腕にすっぽりと収まったまま、今度は抱き合うような体勢を取ったアリエラに、ヴィルダーはちょっと、だとかおい、だとか困惑した声を上げる。自分の腕の中にすっぽりと収まっている美少女と抱き合うなど、そんな覚えのない――少なくとも記憶にある限りは――ヴィルダーにはもう驚くしかない事態で。

「アリエラ、おい、ちょっと、」

だが、アリエラはそれを全く意に返さずに、そのままヴィルダーの背中に自身の腕を回した。アリエラに気を使ってか、アルノが飛ぶスピードを抑えてくれるお陰で、アリエラがきちんと見ていなくともアルノは真っ直ぐに空を飛ぶ。アリエラが前を向かなければならないような状況には置かれないらしい。

ということは、ヴィルダーはこの体勢で暫く、いつまでか分からないが我慢しなければならないのだ。いつになったらその村へと辿りつくのか分からない状況で。

助けを求めるように視線をダーレ達の方に遣るが、アルロを操るダーレは何故かふいと顔をあらぬ方向に背けてしまう。その後ろのゲルトルーデは何やらこちらに文句を言っている様子だったが、少し距離があり、またワイバーン達の飛行速度のせいもあって何を言っているのかはっきりとは聞き取れない。だが、それが聞き取れないのはダーレがそのような位置速度をとるようにアルロを動かしているからであって。

つまりダーレはこちらの味方をしてくれるつもりはまるでないようだ。となれば、そちらからアリエラを止めてもらえることはないと見た方がいいだろう。従って一人でヴィルダーはこの危機的状況から抜け出さなければならないことになる。

 ひとまず今日はこの先流石に日が暮れれば休憩を入れるだろう。アルノを可愛がっている様子のアリエラだから、流石にワイバーンたちにもそこまでの無茶はさせないはずだ。ならば、それまでの間ヴィルダーはひたすら心を無にして耐えればよい。

そして明日は以前見た魔族図鑑を必死に思い出して何とかしよう、と心に決めるヴィルダーだった。特に何とも受け入れがたい形状の魔族たちの形を思い描くのが最も効果的だろう、と必死に以前読んだ本を思い出すヴィルダーの姿がそれから二日に渡って見られた。

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