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記憶喪失の俺が魔王!?  作者: 野山日夏
第二章 活動
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第五話

「今日は何が分かりました?」

 道すがら問いかけてくるダーレに、先程の支出以外のことを口にする。ヴィルダー自身の為に払われた金についてここでどうこう言うのもどうかと思ったし、ダーレとてそれを聞きたい訳ではなく、ヴィルダーがあの書類から一体どんな現状を読みとれたかを聞きたいのだろう。

 先程考察したことを口にしながら、それが正解か窺おうとダーレの表情を見る。だが、人畜無害な笑みを浮かべているダーレからはヴィルダーの想像が正しいかそうでないかは窺えなかった。

 ヴィルダーが機密事項に携わらせてもらえるようになってから、彼らとの関係も少しずつ変わっていった。ゲルトルーデとは先述の通り、何とかうまくやれるようになってきている。というか、彼女のよく分からないテンションの主導を取れるようになってきているというか。彼女が暴走し出すより先に、こちらからリアクションを起こして知っている動作を起きるように誘導すればいいのである。

 ダーレともこの調子で、何となくダーレにはやり取りで敵わないことが見えてきているので下手な地雷は踏まなくなってきた。悪意があるのか実は天然なのかは未だに判断しかねているが、とにかくそういう相手なのだと大きな心で受け入れることにしている。

 そんな話をしているうちに、食堂へと辿りつく。机の反対に腰掛けているアリエラは遠目にも機嫌がよさそうに見え、何かいいことでもあったのだろうか、と首を傾げる。

「ヴィルダー、調子はどうですか?」

 問いかけてくるアリエラに、好調だと返しながらテーブルを見る。なるほど用意されているのはダーレの言った通り、アスパラガスを中心とした料理だった。何とかない知識を絞り込んで野菜とクルトンのソテー、という言葉を捻りだす。なんちゃら添えとでも付け加えた方がそれらしかっただろうか、と思いながら、しかしつけるべき言葉も分からないので、ヴィルダーの中でその料理は野菜とクルトンのソテーに収まった。

「そっちこそ何か機嫌がよさそうだが、どうしたんだ?」

 椅子を引いてもらって腰掛けながら問いかけると、アリエラはふにゃりとはにかんだ。

「ヴィルダーの食事の手伝いをするのもよかったけれど、一緒に食べるのは一緒に食べるのでやっぱりいいものだと思いまして」

 言われて、食事を手伝ってもらっていた頃や、アリエラに食べる一部始終を見られていた頃のことを思い出す。それなりに日が経っていたしヴィルダー自身、あまり自分で食事が摂れなかったときのことは思い出したくないだけにがくりと項垂れる。子供ではないのに食事を手伝ってもらっていただなど、恥ずかしくて記憶から消してしまいたいくらいだ。

「それはもう言わないでくれ……」

 呟くと、アリエラがだって、と楽しそうに笑いだす。その笑みに、ヴィルダーはアリエラがわざとその話を振ったことを知った。そしてうまくヴィルダーの問いは誤魔化されたのだということも。

 いや、彼女のことだから本当にそう思っているのも確かにあるのだろうが、それでもヴィルダーの問いにストレートに答えてくれないのは、アリエラにその解を明かすつもりがないからというのが大きい。それをここ暫くでヴィルダーは徐々に悟ってきていた。

 アリエラが一体何を隠蔽したのかは分からないが、アリエラの性格からしてきっとそれはヴィルダーのことを慮ってのことなのだろう。それでもそうやって守りたいはずの彼女に守られる自分が少しばかり不甲斐ない。こういうとき、そもそも余り役にも立たないのに、更にアリエラの負担になってしまっていると知らしめられる。

 そうやって気持ちがどんどん沈み込んでいき、もう自分等いない方がいいのでは、とまで思った頃、それが余りにも顔に出ていたのか、そのヴィルダーを扱いかねてアリエラが急におろおろとし始めた。

「ちょっとヴィルダー? そんな顔をしないで下さい。誤魔化した私が悪かったかな、と思ってしまうじゃないですか」

 言われたヴィルダーは自分が一体どんな顔をしているのか心配になったが、ぱっと見た限り鏡など見当たらないのでそれを見ることは叶わなかった。そういえば屋敷のどこにも鏡がないな、と思ったが、そんなことよりアリエラがああもう、と己の顔を手で覆う仕草の方に気を取られた。白く細い指でその綺麗な顔を覆い隠して頭を振る、その幼い動作がとても可愛いことをアリエラは知っていてやっているのだろうか。

 あーだかうーだか唸ること暫く。やがて顔を己の手のひらで覆ったまま少し開いた指の間から恐る恐るといった風にヴィルダーを覗き込んでヴィルダーの顔を確認したアリエラは、それからああもう、と言った。

「言います。言いますから機嫌を直して下さいよ、ヴィルダー」

 アリエラにそんな反応をされ、本当に自分がどんな顔をしていたのか知りたくなるヴィルダーだった。

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