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記憶喪失の俺が魔王!?  作者: 野山日夏
第二章 活動
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第二話

 ヴィルダーの察したところによれば、ダーレという男は女扱いされるのが気に食わないらしい。特にその容姿の流麗さからそんな経験はそれこそ幼い頃から数多く存在するのだろう。普段はゲルトルーデが傍で暴走しようがにこにことして人畜無害な側面を見せているというのに、いざそんな扱いをされると全く不愉快であるということを隠さないのである。

「悪かった」

 謝れば、いえ、気にしてなどいませんから、と言う割に相変わらずダーレの言葉には棘があるままだ。まだ気にしているではないか、と思ったが、指摘すればますますダーレの不興を買うばかりだろう。

 その辺りは少し時間を置いて頭を冷やしてもらうのが一番確実だと判断して、ヴィルダーは先に皿を空にすることにした。そうして適度に時間を置けば、その間にダーレの頭も冷えることだろうと予測してのことだ。

 そうして暫く黙々と食事を再開する。もう食事の手は人に助けを借りずとも普通のペースで動かすことが出来ている。怪我の直後の頃のぎこちなさの抜けたその動きに、アリエラが己のことのように喜んでくれつつも、どこかでがっかりしていたのをヴィルダーは思い出した。

 アリエラとしては、ヴィルダーの回復は嬉しいが、ヴィルダーの食事の手伝いの申し出すら出来なくなったのは何となく悲しいということらしい。因みに、これはヴィルダーがナルシシズムから勝手に想像した妄想などではなく、アリエラ自身からそう聞いた、れっきとした事実である。

 アリエラの少し悲しそうな顔に相変わらずその顔に弱いヴィルダーはうっ、となった。だが、だからといって手が普通に動くのに食事を食べさせてもらうなど恥ずかしいことが出来るはずもない。そこは何とか耐えて、アリエラには首を横に振ることで答えた。勿論、アリエラが余計に悲しそうな顔を見せたので、ヴィルダーも辛かった。

「そういえば、今日のメンバーの確認をしても大丈夫か?」

 そうして食事を終え、器を置いたところでヴィルダーはダーレに問いを投げかけた。今からの会合に向けて、記憶がないなりに上に立つ者として余り恥のないようにしたいというのは誰しも思うことだろう。ヴィルダーもまた、最終確認をするべく確認を望んだ。

 ダーレはすぐにはそれには答えず、ヴィルダーの置いた皿を取ってカートに積む。それからそれを部屋の外へと置いてすぐに戻ってきた。ダーレはこの後ヴィルダーを連れ、重鎮たちとの顔合わせの場所たる会議室へと向かうのだから、となればカートはダーレがこの部屋にいるうちに誰かが回収するのだろうか。

 そんなことを思いながら一連の出来事をヴィルダーは眺めていた。

「そうですね。こちらも確認はしておかなければと思っていたところです」

 戻ってきたダーレはそんな言葉と共に、いくつもの人名をそのよどみない声音で読み上げ始めた。

「今からヴィルダー様がお会いするのは二人ですね。一人目はアラリッヒ・ホフマン。こちらの方は主に国内の政務を担当しています」

 ふむふむ、と聞いていたヴィルダーだが、ダーレがさらりと

「優秀な方でしたよ」

 などと付け加えたのにぎょっとしてダーレを振り返る。一体何故そこで過去形になってしまうのか、と突っ込みたい衝動に駆られたが、平然とそのまま戦闘には長けていませんが、その不足は彼の有する知識が補ってくれます、などと説明を続けてしまっているダーレを見ると、それを遮るほどの意欲も湧かないというか。

 その顔は本当にただごく普通に仕事をしています、と言わんばかりでそこには何らの悪意も見えてこない。ヴィルダーの方が何か己が過剰反応してしまったのではないかと心配になってくるほどにダーレはいつも通りだった。

 そのホフマンさんが優秀だっていうのはもう過去の栄光なのかな……、などとヴィルダーが想像しているうちに、ホフマンについての説明は終わってしまったようで、ヴィルダーがダーレに再度意識を向けたときには、既に次の人物の話へと移り変わってしまっていた。話の後半を聞き損なってしまったが、今それを言うのはまたダーレの機嫌を損ねる予感がしたため、ヴィルダーはそのまま黙って続きを耳に入れることにする。

「リスベット・イェーガーは外交担当ですね。まぁ、我々魔族は人間から忌み嫌われているようなので外交なんてものはあって無きが如しですが」

 それはまさか暗に外交担当が要らないと言っているのだろうか。

またもやさらりと、そのイェーガーがお飾りであるような発言をするダーレに、ヴィルダーはダーレがどうやら腹黒であるらしいことを遅まきながら悟った。それをしっかりと心のメモ帳に書き遺し、ちらりとダーレを見る。

 先程と同じく、ダーレの言葉に衝撃を受けたヴィルダーへの配慮など全くなしにイェーガーの詳細をよどみない口調で語っている。生まれ持った戦闘力は高いが、それが全く活かせない戦闘音痴だなんだなど。残念ながらヴィルダーの耳には全く入って来ないが。

 本人に悪気があるのかないのかはその顔からは全く想像が出来ないが、どちらにせよよくないことである。気をつけることにしよう、と一つ決意を新たにして、ヴィルダーはふむ、と考え込んだ。

 今のダーレの話を聞く限りでは、ダーレの心証はともかくとして、どちらもかなりの重鎮のようだ。魔王の直接の配下なのだから当たり前といえば当たり前なのだが、改めてそれを思い知らされるというか。

 ダーレにしてもゲルトルーデにしても、そしてアリエラにしても、彼ら自身も重鎮のはずだが、ヴィルダーは未だ彼らのそういった一面を見ていないためまだ実感が湧いていない。初めから重鎮だと伝えられた相手との対面に、どうしても緊張してしまうのはどうしようもなかった。

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