油断大敵ってのはこのことか
リツの不幸度が凄いことに。詳しくはあとがきのリツをご覧下さいw
それと、わずかですが感想を参考に書き直してみました。改良になっていたら幸いです。
二日目の野営もつつがなく終了し、残りの道を歩く僕ら。日が暮れる頃には、目的の港町アーセナルに到着するようだ。
それにしても、ここらへんも平和になったものだ。僕らがこの大陸に初めて降り立ったときなんか、殺る気マンマンの上級悪魔に大型竜種、ウィンウィンと不吉な音を撒き散らす古代の機神兵に、暴走した上級精霊と、なんのお祭りですかっていう状況だったし。
五歩歩けば魔物は襲い掛かってくるし、魔力欠乏なんて当たり前、下手すれば魔物の群れの中で気絶なんてのもあり得たかもしれない。
「うふふ、平和だ……うふふふふ」
「リツが……リツが不気味だ!」
「こらっ、そういうこと本人の前で言わないの!」
おいキミら。聞こえてるぞ。
いや、だがそれにしてもいいことだ。道の脇に咲き誇る、美しくも彩り鮮やかな花々。太陽の光に輝く赤や青、黄に眼をうつしながら、のんびりと街道を歩く。うん、穏やかだなぁ。
ちなみに幌の中は、僕が積荷以外のほぼ全てを完全凍結したため、しばらくはこのままのんびりできる。おそらく目的地につくまで、このままでいいだろう。
最初からやれって?……べ、別に思いつかなかったわけじゃないんだからねっ!
「あともう少しで港町アーセナルですよ!」
「わぁっ!やっと綺麗なお風呂に入れるんですね!!」
御者台から顔を出したマーカスさんの言葉に、いち早く反応したシルヴィア。やっぱり女の子、そう言うことにも気を使うお年頃なんだろうね。
対して、ちょっと不服そうなリッキー。多分、今回の道程で活躍の場がなくて、面白くないんだと思う。
「ちっくしょ~!強敵出て来いやああぁぁ!!」
なんて叫んでいた彼に、そんなことを言うとホントに寄って来るから止めてくれと、割と本気で懇願した僕。
この世界でフラグは無視できない要素だ。以前僕も、それで酷い目にあったことがあるから分かる。
女の子を助けて(下心あり)暴力団ぽい奴らの抗争に巻き込まれたり、女の子を助けて(下心あり)騎士団に連行されかけたり、女の子……かと思ったら男の娘を助けて(下心あり……でした)多くの女の子に命を狙われたり!あれ!?
これ……全部僕のスケベ心が原因なんじゃないか?
「おや、なんだか雲行きが……ぬぅっ!?」
「あ、きゃあっ!!」
「ちっ、なんだってんだ!!」
ブツブツと気づいてしまった重大な事実を心の奥底に追いやるので必死だった僕は、注意力が散漫に過ぎていた。突如として全体に広がった黒い影の存在に、気がつかなかったのだ。
パッと顔を上げて目に映るのは、迫り来る真紅の巨大な……壁?
「リツさん、危ない!」
「リツ!!」
「お願い逃げて、リツ!!」
「…………ん?」
一体何が起こっていr(ぐしゃあっ
*****
Sideシルヴィア
「り、リツーーーーーッ!!」
そう、それは突然だった。赤い赤い、竜の尻尾がリツを遥か遠くへ弾き飛ばしたのだ。これでは、当然生きていないだろう。下手したら、原型すら留めてないかもしれない。
直後、そいつは私たちの前に姿を現した。ドスン、という地響きと共に、地面に降り立ったのは竜種の中でも中級に位置する炎竜。ファイアドラゴンだ。
全身が血で染まったような暗い赤色で、その体表は触れたもの全てを傷つけるかのごとく鋭いうろこで覆われている。
馬車なんかよりも遥かに大きな図体は、真正面に立ちすくむ私たちをコレでもかと威圧する。正直、私はもう立っていることすら困難な状況だ。足が震えて、何がとは言わないがちびりそうだ。
「ほおおおおぉぉぉりゃっ!!」
と、私が呆けている間に誰かが奇妙な奇声と共に炎竜に突進していく。手には槍とそろばんが合体したもの。リツが「『正義のそろ〇ん』!?ト〇ネコかよっ!?」といっていた武器だ。走る体にあわせ、ブルンブルンと贅肉が揺れる。
って、護衛対象のマーカスさんですか!?
慌てて隣を歩いていた馬鹿を振り返ると、白目を剥いて気絶しているリッキーの姿が。
「も、もう……やるしかないじゃないっ!!」
ホントは泣きたい、恐怖に震えたい。だけど、そうこうしていると依頼主のマーカスさんが死んでしまう。
「ほりゃほりゃほりゃほりゃほりゃあああぁぁぁ!!」
……いや、なんだか大丈夫そうだね。でもなんで突然あんなにアッパー気味に?
考えていても仕方ない。今は奇襲を受けて戦闘不能のリツも、中てられて涎垂らしてるリッキーも、今は意識から除外。
倒せなくても、なんとか生き残るっ!
「い、いくわよ……『アイシクルボルト』!」
「ふぎゃあああぁぁ!!」
「マーカスさん魔法の射線上に入ってこないでよ!」
『ギャアアアアアァァス!!』
「「ひぃっ!!」」
氷の結晶を多分に含んだいかずちは、炎竜目掛けて一直線に飛んでいったが、いきなり斜線上に飛びだして来たマーカスさんによって遮られた。
確実に直撃コースだったところをマーカスさんに邪魔されたのだ。護衛対象とはいえ、殺意が芽生えそうです。
直後に怒った炎竜の咆哮。圧倒的な大音量に、思わず耳を抑えてしまった。その致命的な隙に、炎竜は鋭利な刃物を思わせる爪を振り下ろす。
マーカスさんのすぐ前に振り下ろされ、直撃は避けたが衝撃で馬車ごと横転するマーカスさん。圧倒的威力に、耐えられず気絶したらしい。
「くっ……『アイシクルダガー』!」
苦し紛れに打ち出した氷の刃も、炎竜の体表で溶けてしまう。何度と無く氷属性の魔法を打ち出すが、全て体表で溶かされる。そうこうしているうちに炎竜はすでに目の前に。私は、絶望感に襲われた。
竜種はたとえ下級であっても、熟練の冒険者何十人と集めてやっと倒せるほど強力だと聞いていた。中級となったら、個人で英雄並みの力を持つものがパーティを組んで倒すものだ。でも、実際に見るのは初めてだった私は、竜種の強さにいまいち実感が沸かなかった。
でも、今なら言える。あの時、敵が竜種だと気づいたときにすぐ逃げるべきだったんだ。私は自分の実力に少なからず自信を持っていたが、それが驕りだったことを悟る。
「やだ……来ないで……」
『ギャアアァァ!!』
「助けて、誰か助けてえぇぇ!!」
私の絶叫と同時に、爪を振り下ろす炎竜。それを見て、ギュっと目を瞑った瞬間、その声は聞こえてきた。
「『レイ』」
低音だが、男にしては少し高い少年の声が、はっきりと私の耳に届く。
次の瞬間、『ズガガガガガッ!!』という凄まじい轟音と共に閉じた目蓋の先が真っ白に染まった。
慌てて目を開くと、絶叫してよろける炎竜と、なおも落ち続ける光線が目に入った。その光線は、炎竜の爪を折り、翼を焼き、牙に穴を空ける。
今の魔法は……レイ?光属性中級魔法だけど、こんなに威力が高かったかな?
と、それより今の声は……!
「……り、リツ!?」
「やあ、シルヴィア。無事……とは言えないまでもなんとか間に合ったか」
「……いや、逆にあんたが大丈夫か聞きたいわ」
背後から現れたリツは、頭からド派手に血を流しており、血濡れの部分が無い状況だ。助けてくれたのは嬉しいけど、正直さっさと治療院に行ったほうがいいんじゃないかと思うほど。
というか、なぜ顔面をヒクつかせて、炎竜を苦々しい顔で見ているんだろう?
でもまあ、リツが来てくれたのは嬉しい。彼の実力は、私やリッキーよりも上だろうし、炎竜から逃げるなんて造作もないことだろう。なんとか足止めをして、その間にリツにマーカスさんを連れて行ってもらえば、少なくとも依頼の失敗にはならないはずだ。後は国の騎士団などに、討伐されるのを祈ろう。
「リツ、今から私が時間を稼ぐから、マーカスさんを連れて……」
「いやいや、時間稼ぎとかいらないよ」
「え?で、でも依頼が……」
困惑した私の言葉には答えず、そのまま歩みを進めるリツ。私よりも前にでた瞬間、リツからどす黒い殺気のようなものが溢れ出てきた。
それを見た私が感じたのは、純粋な恐怖。漠然とだが、これからリツによる蹂躙が始まるのだと思わせる。それほどの威力を持つ殺気だった。
私が向けられているわけでもないのに、足がガクガクと震える。そして、混乱して恐慌を起こした私の耳に届いたリツの声は、怒気を孕んだ刃のようにこの場を切り裂いた。
「トカゲ野郎の分際で僕に奇襲とは、調子こくな……!『シルヴァリオン』!!」
『ぐ、ぐが……』
リツが腰に差していた長剣(あれ、あんなの持ってたの?)を抜きながら叫ぶと、その剣は呼応するように蒼く光る。その光に、炎竜は気圧されたのか唸るだけだ。
「『サンダーストーム』『ダイヤモンドダスト』『イビルシザース』」
剣を片手に走るリツは、立て続けに大呪文を詠唱していく。その先に待つ炎竜は、特大の雷の嵐に飲み込まれ、降り注ぐ大粒の氷の結晶に切り裂かれ、闇の瘴気が形作る爪にえぐられ、すでに満身創痍だ。
リツが連発する大呪文は、どれももはや広域殲滅魔法なんじゃないかってくらいに威力が高い。こんな魔力の運用は見たことが無い。これはもう、別の魔法なんじゃないの……?私が驚くのは当たり前だけど、なんでリツ本人がひいてるのよ。
頭を振って何かを振り切ったリツは、その炎竜に向かい、剣を持っていないほうの手で剣の腹をなぞる。途端、古代文字のような文様が、なぞった部分からすべるように現れた。
ひたすらに蒼く、発光する長剣。ことここに至って、ようやくリツの持つあの剣が、魔剣であることに気がついた。内包する魔力は、肌で感じるほど膨大だ。脳裏に、先ほど考えていた英雄の姿と、リツの姿がダブる。
けれど、唐突に炎竜の胸が膨らんでいく。リツを正面に見据えた炎竜は、口を大きく開けて……!
「リツッ!!」
『ゴアアアァァァッ!!』
炎の奔流を吐き出した。炎竜のブレスだ。コレには一個師団は全滅するほどの威力が秘められている。ましてや中級竜種のブレス、骨すら残らないだろう。
私は力を失って、へたり込んだ。短い間ではあったけど、一緒に旅してきたリツが。やわらかく、されど厳しく諭してくれたリツが。私が絶体絶命だと思って諦めたとき、助けてくれたリツが。炎竜に敗れたんだ。
しばらく呆然としていた私の耳に、「ガッ」という地を踏みしめる音が聞こえた。もしやもう炎竜が!?そう思って目を向けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
すすけてはいるけれど、しっかりと足を踏みしめて走るリツの姿。あまりの速さに、剣の蒼い光が残像を残している。驚いた炎竜に向かって、ただただ進むリツ。驚きのあまり、私はへたり込んだ状態から飛び起きてしまった。
「おおおおぉぉぉ!!」
走り寄ったそのままの勢いで、咆哮と共にリツは長剣を突き出す。先ほどのブレスが最後の力だったのだろう。すでに多くのダメージを受けて避けることも出来なかった炎竜の腹に、深々と突き刺さった。そして、突き刺さった部分から古代文字が流れ出し、炎竜の体を包み込んだと思うと……。
「……爆ぜろ!」
大爆発を起こした。驚きを通り越して、呆れすら感じる。一瞬、リツも爆発に巻き込まれたんじゃないかと思ったけど、すぐに横に気配を感じたため、安堵の息を漏らした。
さっきのリツは怖かったけど、今はもう怖くない。というか、戦うリツがちょっとカッコよkって、何考えてるの私は!?
……それにしても、よかった。私、死なずに済んだんだ。安心して、腰が抜けてしまい、その場で尻餅をつく……ことはなかった。リツが、よろけたときに支えてくれたのだ。それに少し気恥ずかしくなりながら、体を強張らせていた力を抜く。赤くなった頬を、見られないといいけど。
「おっと、大丈夫?大きな怪我とかは無いみたいだけど、一応ね」
「あ、治癒、術……?何で魔導師のあんたが法術なんか……それに、剣……?」
「昔の仲間にね、教えてもらったんだ」
ほんとに、コイツ何者?見たこと無いほどの威力の大呪文、蒼く光る魔剣、治癒術。10代の若者に……というか、私より若いのに修められるものじゃない。
どんな過酷な修行をすれば、こんなに強くなるんだろう。そう疑問に思いながら、心地よい暖かさに身を任せ、私の意識は深いまどろみへと落ちていった。リツが何かを慌てて言っていたけど、眠りについた私には、届かなかった。
Sideリツ
「お願いだから今回見たことは誰にも……って、寝てるのかよ!?」
腕の中で眠る少女は、僕の外套の裾を握ったまま眠りについた。大きな怪我を負った人はいないようで、僕は安堵のため息を吐く。
中級の炎竜とはいえ、油断してたから結構痛かった。ただ、全身血濡れとはいえ、怪我自体はそう酷いものでもない。派手に血の出る額を切ったから、酷く見えるだけのことだ。
っていうか、気配とか分かんないし!そんなのアニメや漫画や小説の世界だけだっての!という自己弁護をしてみる。
ふと、殺した炎竜の死体に目をやる。所々が炭化し、崩れかけたその悲惨な姿は、僕に「やっちまった」と思わせる。正直言って、魔法剣まで使うことはなかった。意味わかんないほど一つ一つの魔法の威力が上がってたし。
ちょっと、怪我させられてキレてたっていうのもあるけれど。中級程度の竜種なら、魔法か剣だけで勝てたのに、なんで実力がバレる危険を冒してまでこんなことを?
「……シルヴィアが、ミュールにちょっと似てたから、かな」
どこというわけではないが、雰囲気がなんだか似ている気がする。うん。
多分、そのシルヴィアの危機に、自分でも驚くほどプッツン来たのだろう。自制しないと。
「……って、ああぁぁ!?」
ふと、胸元が冷たく感じ、まさぐってみると、かなり高価な魔法薬のビンが割れ、中身が漏れまくっていた。なんてこったい。
しかも、なんだこの感触……!?あ、ああぁぁぁ!!
ミュールから魔王城突入前夜にもらった、ペンダントが!ひしゃげてる!!
やややややばばばbbbb(ry
ミュールに見つかったら、こ、殺される……!
「うぅん……」
戦慄を隠せないでいると、腕の中のシルヴィアがもぞりと動いた。なにかブツブツ言っている。寝言……?
「リツ……」
「ぼ、僕……?」
「リ、ツ……年下の癖に生意気よ……」
「なっ……!」
い、いや、確かに僕は童顔かも知れないけれど!
でもキミ、17か18だったよね!?
僕は、20だからあああぁぁっ!!