既視感って結構頻繁に起こるよね?
「えー、皆さんと共に護衛任務に当たっていた熟練魔導師のガラムさんですが……朝起きたら眠るように亡くなっていました」
「「「えぇっ!?」」」
「私のほうが『えぇっ!?』ですよ!朝起きたら白眼剥いたジジイの仏さんがどアップですよ!?『えぇっ!?』どころか『ぎゃああぁぁ!!』でしたよ!!」
野営の一夜が明けて、みんなが集まるなりマーカスさんから重大発表があった。高齢の魔導師ガラムさん(92)が、亡くなったらしい。
まあ、仕方が無いと思う。だって、もともと生きてるか死んでるかすら分からない爺さんだったもん。
よだれを垂らし白眼を剥いた老人の死体は、なかなか見ている者には苦だ。青紫色に変色しきった舌は、だらしなくビロンと口外に投げ出されている。
「これ……絶対苦しんで死んだよね」
「リツさん……苦しむ声とか聞こえなかったんですか?」
「え、えっと……と、特にはー?」(夜盗の断末魔で聞こえなかったとは言えない)
「の、呪われそうだな……幸先わりぃ」
「あ、あんた呪いだなんて……不謹慎よっ」
「な、なんだとぅ」
心なしか、シルヴィアとリッキーの掛け合いにもハリが無い。早朝からの突然のアクシデントに、ダウナー気味の面々であったり。ガラムの爺さんの仏さんは、正直トラウマもんである。
「そうか……分かったぜ」
「な、何が分かったのですかなリッキーさん……?」
「ふっふっふ、謎は全て解けた!!」
「「「な、なんだってー」」」
「犯人は、この中にいる!!」
突然、満面のドヤ顔と共に言い放つリッキーと、それに棒読みで驚いてみる僕ら。それにしてもこいつら、ノリノリである。
「犯人は……リツ、てめぇだ!!」
「っっっ!!」
「お前は見張りという立場を利用し、ガラムのじじぃを殺害した!!」
「そ、そんな……」
「なんと、リツさんが……」
「ち、ちがう!僕じゃない!!」
「いいぜ。てめぇが認めねぇんなら、こっちにも考えがある」
そうして、リッキーが懐から取り出したのは……黒の、髪の毛……!?
「この中ではてめぇしか生えてない、黒の髪の毛だ。これがガラムのじじぃの遺体のそばに落ちていたんだ」
「そ、それじゃあやっぱり犯人は……」
「……あなただったのね、リツさん」
「違う違う違う!!僕は…………僕はっ!!」
「いい加減にしやがれ、往生際がわりぃぞ!」
バサリと、木々から鳥が飛び立った。リッキーの怒声が耳朶を打つ。
シンと静まり返った場で、1人だけ動くものがいた。リッキーだ。リッキーは俯く僕の肩を抱き、力強く僕に声をかける。
「……お前は俺の子分だろ。なんで1人で抱え込むんだ」
「リッキー……いや、兄貴……!」
固く結ばれる友情に、シルヴィアとマーカスさんは静かに涙を流した。
*****
「って言う夢を見たんだぜ☆」
「はいはいバカバカ」
「んだとぉ!!」
「っていうか、僕が子分って言うのは決定なんだね……」
今朝の夢を熱く語る馬鹿に、ため息を吐く。
相変わらず朝ごはんの用意やら何やらまで1人でこなす僕は、朝っぱらから喧々囂々としているシルヴィアとリッキーを横目に鍋をまぜた。
昨日襲ってきた連中は、埋めた。地下深くに。だからパーティメンバーにはバレていないはずだ。
というか、あれだけ怒声が響き渡っていたのに誰も起きてこないとか……緊張感が無さすぎではないだろうか。
「ちょっとリツ!なんとか言ってやってよ!!」
「おいリツ!言い返してやれ!!」
はい、巻き込まれましたー。(2回目)
「ふぅ……どうでもいいけど、もうすぐご飯できるから。食器の準備してくれない?」
「「はーい」」
まぁ、なんだかんだ言って言われたことはやるので、可愛いもんである。手間のかかる弟妹を持った感じだ。
……リッキーは見たところ僕より1つ2つ年上なんだけど……まぁいいか。
「あわわ、皆さんっ」
「あれ、おはよーマーカスさん。どったの?」
慌てて出てきたマーカスさんは顔面蒼白で、いっこうにテントから出てこないガラム爺さんの存在がみんなに嫌な予感を抱かせた。
ま、まさか……。
「皆さんと共に護衛任務に当たっていた熟練魔導師のガラムさんですが……朝起きたら眠るように亡くなっていました」
で、デジャブ……っ!!
*****
積荷の冷却を終えたリッキーが、馬車の幌からフラフラと出てきた。
2時間ほど常に冷気を作り出していたリッキーは、もう魔力も体力もバテバテのようである。
だが、これだけ長い時間冷やしたのなら、しばらくは保つだろう。頑張ったようなので、水を用意してやる。
「うへー、しんどっ」
「お疲れリッキー。ほら、水」
「おう、さんきゅーリツ!」
「ふん、たったそれだけでバテるなんて、軟弱ねぇ」
「なんd「シルヴィア、それは聞き捨てならないな」」
シルヴィアのいつもの軽口に乗っかりかけたリッキーだが、この発言はいただけない。何かいいかけたリッキーにかぶせて、僕はシルヴィアに眼を向けた。
「魔力の保有量は、生まれたときから決まっている。それは知っているよね?」
「え、あ、うん……」
「なら、本人の努力じゃ魔力量だけはどうにもならないんだ。それを馬鹿にするって言うのは、いけないことじゃない?それに、エルフはともかく人間は、魔力を失えば死んでしまうんだよ?」
「う……ごめんなさい……」
「へへっ、ざまー「リッキー。魔力の絶対量だけは努力じゃ増えないけど、術式を弄れば消費量を抑えることはできるよね?」……う゛」
なんとなく萎んでしまった2人に背を向け、幌の入り口を開く。心地よい冷気が隙間から漏れ出て、僕の前髪を揺らした。
「僕の師匠の言葉だけどね、『生まれ方は関係ない。その後どういう生き方をするかが重要』だそうだよ。偶然持って生まれた大魔力に胡坐をかいたり、努力は報われないと卑屈になったりするのは、誇れる生き方なのかな?」
「「…………」」
「ん……次は僕の番だから。2人は魔力の回復をしといてね」
パタンと幌を閉じて、ふう、と一息。
「…………っ!…………っ!」
そしてジタバタと悶えた。それはもう悶えに悶えた。なにを僕は語っているのだろうか。
誇れる生き方なのかな?(キリッ
死ねる。これは死ねる。
「はー、ミュールには見せられないな」
いや、聞かせられないな、か。それにしても偉そうに説教とか、恥ずかしすぎる。
ミュールに聞かれたら、絶対に「お前が言うなww」って言われる。下手したら広域殲滅魔法まで使われるかもしれない。
さっきの2人に言った言葉……全部ミュールから僕が言われた言葉だったりする。
「……はぁ。やるか」
薄い青が手のひらから漏れ出し、大気の熱を冷気に変換していく。
術式を弄りながら、もっとも変換効率のいい組み合わせを模索する。
結局、次の野営が決まるまで、僕は冷気を出し続けた。幌から出て、ピンピンしている僕を見たみんなの表情は、なかなかに傑作だった。
今回も不幸度は低め。
でも次回は散々なことになりそう。
ちなみに実力バレは、次回に持ち越されました。
今のパーティメンバーの誰かは、レギュラーになりそうなんで。
では最後に、逝ってしまったガラム爺さんに、黙祷っ。