普段温厚なやつほどキレると怖い
今回は不幸度低いですね。
酷い目にあわせたいなぁw
2頭の馬がひく馬車が、街道をのんびりと進んでいく。街道とは言ってもちゃんと整備されているわけじゃなく、馬車などに踏み固められて出来た道なのだけれど。
その周りでは、3人の魔導師風の人影が、馬車を守るように配置されている。女が1人に男が2人だ。
「……なんで魔導師しか雇わなかったんだろう?」
「はっはっは、リツさんそれはですね!積荷を交代で冷却してもらうためですよ!一人が冷却、残りが護衛という具合にですね!」
荷台で積荷に冷気を送りながら一人ごちると、御者をしているでっぷりと太った男から返事が来た。このエクスクラメーションマーク(!)がやたらと多いオッサンが、今回の依頼人であるマーカスさんだ。
それにしても、そんなに単純な話なのか?普通護衛といったら、前衛と法術士は必須だろうに。
それを聞くと、オッサンはあごの肉を震わせ、悲しそうに目を伏せた。
「………………お金がないんです」
そうですか。
*****
1日の行程が終わった。今は街道の隅で野営の準備中である。
「それでよー!その盗賊に俺は言ったんだ!『やめろ、俺の火球が火を噴くぜ』……ってな!」
「ふーん」
「あ、あとこんな話もあるぜ!あれは今から2年前のことだったか……(ry」
野菜を刻んだり、スープに味付けしたりしながら、横のバカの話を聞き流す。隣の男はリッキー。なんだか僕に突然自分の武勇伝を語りだし、迷惑極まりないことに分担された役割をこなしていない。そのため、なぜか僕がコイツの分までやっているのだ。
あー、なんかかなりムカついてきた。でも我慢我慢、あまり実力見せるようなこと、できないからね。
容姿は伝わっている蒼空の魔剣士(笑)そのまんまだし、魔法もなんだか強力になってるし。それに「シルヴァリオン」はまんま伝承の魔剣だから、絶対に人前では使えない。
すっごく……フラストレーションが溜まります。
「ちょっと、そこの!あんた役割もやらずに何やってんのよ!!」
「ちっ……うるせー女が来やがった」
「あんたねーっ!!」
そのまま横でギャイギャイと怒鳴りあう2人。いい加減にしてほしいです。
後から来た女の子はシルヴィア。なんでも王立なんちゃら魔法学院の生徒なのだとか。いいねぇ学生、青春ですわ。
緋色のふわふわした髪を肩口で切りそろえてあり、ちょっと釣り目でキツイ印象だが美少女である。小柄で運動神経もまるでないが、魔法には自信がある……らしい。
「もー、あんたからも何とか言ってやんなさいよ!!」
はい、僕も巻き込まれましたー。
「あー、っと。別に僕がやっておくからいいんだけど?」
「おぉ!さすが俺様の一の子分!分かってるじゃねえか!!」
「甘やかさないの!第一、あたしだって自分の役割こなしてるのに、不公平じゃない!!」
「……じゃあ、そっちも僕がやるよ」
「え……?いや、悪いわよ!!」
「けっ、結局てめぇも同じじゃねえか」
「あ、あんですってえぇぇ!?」
その声を無視して、黙々と作業をこなす。料理の下ごしらえはできたし、あとはシルヴィアの役割かな。
なんかこの面子だと、分担するより1人でやったほうがはかどるや。
シルヴィアの役割は、簡易テントの設置。女の子1人でこれをするのは大変だろう。まぁ、彼女が料理できないというから、こうなったわけだが。
シルヴィアはすでに1つ建てていたらしく、残りは後2つになっていた。男が2人ずつ入り、女が1つを使うという振り分けだ。
もう1人の魔導師はかなりの高齢で、ときどき「こいつ死んでるんじゃねぇ?」って感じに活動停止することがある。今は休眠モードのようだ。マーカスのオッサン?あの体型でできるとでも?
「ほいっ、ほいっと」
と、つらつらと考え事をしている間にテント設営完了。ライトたちと旅してたときも、ずっとやってきたことだからすぐに終わった。体に染み付いた習慣ってすごいよね。
「ごめんごめん、手伝いに来たよー……って、早!?」
「あぁ、ごめん。終わらせちゃったよ」
「す、すごいわね……そんな細い体でどうやって……?」
あぁ、そういえば。漫画みたいな身体能力を強化する魔法なんて、この世界には存在しない。魔力を体内で無理に循環させようとしたりすると、体中の血管が破裂してしまうのである。僕もミュールに「身体能力を強化する魔法ってないのー?」って聞いてみたんだが、「横着せずに努力しなさい」ってビシリと言われたんだよね。
それからみんなで食事をして、早めに就寝。明日は早いから、休んどくべきだそうな。
で、周りの連中は見張りなんて出来そうにないから、僕が名乗り出る。シルヴィアがあわてて休んでていいとか言い出したけれど、丁重にお断りした。
もともと3日3晩無休で働けるぐらいの体力はあるし、そもそも会ったばかりで実力を信用できない、緊張感の無い連中に見張りなんて任せたくない。
べっ、別にみんなのためを思ってなんて、そんなんじゃないんだからね!!
*****
…………………?
……お。
「おい兄ちゃん。その後ろの馬車の中身よこsh」
ぐしゃっ。
「「ぼっ……ボオオォォブ!!」」
「あ、ごめん。なんか反射的に」
「て、てめえふざけやがって!!」
「ボブの仇だこの野朗!!」
夜盗ぽいのが3人、野営地を訪ねてきた。そのうちの1人を『アイシクルダガー』という氷の刃を飛ばす魔法で殺害。
それにしても雑魚キャラ臭がプンプンするなぁ、こいつら。向かってくる2人に蹴りを食らわし、距離をとる。
うん、いいストレス発散になりそうだ。
「覚悟しなよ……今の僕は、ちょっと機嫌が悪いんだ」
慣れてるって言っても眠いんだよチクショウ!!
実力発揮できないって、イライラしてきますよね?
護衛任務中、リツくんは常に力をセーブしてました。
だから護衛チームメンバーからの評価は、弱くも強くもない奴ですw
次回、早々に実力バレ……か?