魔法剣士リツ、日本人です
実は短編かなんかで、魔王討伐時代の話とかやりたいなぁって思ったり……。
なん、だ……?なにが…………。
僕の意識は、そこで急速に浮上する。目を開けると、生い茂る木々の合間から、木漏れ日が振ってきた。空気は澄み渡り、遠くでは鳥の鳴く声も聞こえてくる。どうやら森の空き地にでも飛ばされたみたいだ。
手早く自分の身辺を確認。相棒、路銀、携帯食、応急キット。どうやら問題ないらしい。いつの間にか体中を苛んでいた痛みは消え、むしろ生まれ変わったかのように清清しい。魔力が満ち満ちているのを感じる。
「……ッ!みんなは!?」
と、そこでようやく先ほど自分の身に起きた出来事を思い出す。僕はあの膨大な魔力の奔流に飲み込まれ、てっきり存在ごと消滅したものだと……。
辺りを見回しても、僕以外には誰も居ないようだ……分かっていたことだが、少し落胆する。結局のところ、ここはどこだろうか?
まぁ、こうして生きているのだ。ここがどこかは皆目見当がつかないが、とりあえず僕らの出発地点であるアーガルド大陸を目的地にしよう。
「『サーチ』……水場があるのか」
当面の目的も決まったし、とにかく今はのどが渇いた。水筒は空っぽだし、今からまた旅を始めるとなれば、水と食料の確保は最優先事項だ。魔法で調べたところ、幸いにも水場は近くにあるようなので、今日はそこで野宿することに。
全身に速度上昇の『イベイジョン』を重ねがけし、文字通り”飛んだ”。
「おわわわわああああぁぁ!?」
予想以上の推進力に、驚きの絶叫を轟かせる。近くの木々から、一斉に鳥が羽ばたいた。
どういうことだ?使い慣れた魔法なのだが、あまりにもあんまりな効果の"効きすぎ"に唖然としてしまう。
無様に空中を舞いながら集中してみると、ありえないほど空気中に魔力が充満している。それも、見渡す限り全てが。森も、空も、大地も、魔力含有量が凄まじいのだ。
「ッ……『エアライド』」
ともあれ、驚いてばかりも居られない。空中を走るために僕がミュールと共に研究した呪文、『エアライド』を使用し、ゆっくりと地上に降り立った。まあ、一瞬空中での姿勢制御に失敗したけれどね。『エアライド』まで効きすぎていた。
運よく降り立ったのが水辺で、綺麗な川が目の前を流れている。覗き込むと、久しく見ていなかった自分の顔が見て取れる。
黒髪黒目という、この世界では極めて珍しい特徴。もちろん、僕が地球の日本出身であるという証でもある。しばらく切っていなかったから長めで、ツンツンとした髪形になってしまっている。5年前の中学生の頃より、だいぶ成長した顔つきになった。とは言っても、いまだこの世界だと幼く見られてしまうんだが。でもまぁ、不細工ではないと思う……思いたい……思わせてください。
男にしては低めの身長だが、筋肉はつきすぎずつかなすぎずと言ったところか。それでも華奢には変わりないので、全身をすっぽりと覆い隠すフード付きの黒いローブが誤魔化している。その下はいたって軽装で、腰に相棒である蒼の魔剣『シルヴァリオン』、背中に愛杖の銀色の杖を差してある。
「まぁ、これでも魔王討伐パーティの一員だし。さすがに板についてもくるよね」
日本に居た頃は冴えない純情ボーイだったけれど、今年で20の僕はいろんな意味で大人になりました。(人殺しを経験したという意味で)
え、彼女?……強くなることしか考えてなかった結果がコレだよ!5年間汗と血の匂いでいっぱいだったよ!なんか文句あるかゴラアアアァ!!
僕、みんなの元に帰ったら、ミュール(183)にプロポーズするんだ……。あ、ミュールは長命種のハイエルフだからね?ババアとか言っちゃだめだよ?人間で言う18歳くらいだそうだし。
「おい、兄ちゃん……有り金と食い物」
「……っと、アホなこと考えてないで、お仕事お仕事」
「よこしんぎゃっ!」
無詠唱で『ソニックブーム』を手のひらから放出する。木の陰でこちらを窺っていたうちの1人が、両断されて絶命した。殺気がダダ漏れだよ、素人め。
水場にたどり着いた時点で、木々の間からこちらを窺い見る複数の気配は感じていた。それのほぼ全てに殺気が含まれているなんて、もう野盗で決定だ。仲間が1人殺されたのを見てか、手に手に武器を持って出てくる。その数およそ、20。
一様にぼろの服装をしていて、ザ・盗賊ルックって感じだ。ダサい。
「野郎!おとなしく身包み置いていきやがれ!!」
「おりゃっ、『フレイムアロー』!」
「ぐはっ!!」
あっちゃー、しまったね。こういう天然の水場って、野盗の拠点なのが常識じゃないか。「ひぎっ!」はい2人目。それにしても仲間がやられたのにこの冷静さ、軍人崩れとかかな?
「気をつけろ、奴は相当の……がっ!」
「ひ、ひぃぃ!ばけもnごふっ」
「や、やめろ、来るな来るな来るなああぁぁ!!」
おうおう、逃げる逃げる。大の大人がみっともなく命乞いして逃げるよ。あんたらはそうやって命乞いしてきた人たちを、どうしてきたんだろうね?
経験上、こういう輩は情を見せれば同じことを繰り返す。だから一時的に心を凍てつかせて、殲滅する。
追尾式の『アイスニードル』で、トドメ。僕の周りに、生き物は居なくなった。血の匂いが漂う中、水筒に水を補給する。
「ふぅ、やっぱり慣れないな……」
初めて殺しをしたときは、ホントに散々だったけどね。泣いて喚いて取り乱して、みっともなく現実から逃げたもんだよ。ウェンディにぶん殴られるまで、発狂してたからね。ウェンディに抱きしめられて、ワンワン泣いたのは過去現在未来合わせても、最大の黒歴史だと思う。
この話の流れだったら、ウェンディに惚れるよね?でも、あの子は大親友のライトと相思相愛だし。もともと好みではなかったから、恩義はあるけど恋心はなかったなぁ。
それよりミュールだよ!典型的ツンデレさん。あの尖った耳もさることながら、手のひらに完璧収まりそうな小ささの胸が(ry
まさにドストライクなわけです。ただ、ミュールは僕の魔法の師匠だったから、この思いは内に秘めてたんだけどね。
いい機会だから僕と仲間たちとの関係をザっと紹介しよう。ライトはこの世界に紛れ込んだ僕に手を差し伸べてくれた、初めての人間。旅の始まりは、僕とライトの2人だったんだ。旅の間色々とあったけど、助け助けられ、いつしか親友になっていた。あとイケメン。
ウェンディは、正直第一印象が互いに最悪だった。実は大国の姫君なんだけど、イケメンで勇者なライトの旅の連れとしては、僕の存在に納得行かなかったらしい。まあ、そのときは僕、駆け出しも駆け出しだったから仕方ないんだけど。共に戦ったり、ライトとの間を取り持ったり(これが理由としては大きいような気がする)しているうちに、いつしか認めてくれるようになったみたいだ。あと巨乳。
ミュールは言わずもがな、僕の師匠で想い人。長い金髪を後ろで一本の三つ編みにしていて、黒いとんがり帽子が特徴の魔女っ娘だ。いつも飄々としているが、照れると素直になれなくなり、結果ツンデレキャラに落ち着いた。大火力の広域殲滅魔法は圧巻の一言。魔法だけだったら勝てる気がしない。隠れ里を飛び出してきたやんちゃなハイエルフで、僕の潜在的かつ膨大な魔力に目をつけて、いきなり僕を弟子にした人だったり。彼女には大きな大きな借りがある。それを返すためにも、早く再会したい。あと貧乳。
バーン?あんな脳筋知らん。
「みんな、あの後大丈夫だったかな?誰も大怪我してないといいけど」
さて、だいぶ長いこと回想してたけど、水の補給も終わったし、そろそろ町に出発しよう。ここがどこかは分からないけれど、世界中旅したわけだし、どこかしらの町に行けば、すぐに現在地が割り出せると思う。
ふぅ、と一息。全身に魔力をみなぎらせる。思い浮かべるは飛翔する自身。『エアライド』
「ぴゃあああああああぁぁぁぁ!!」
……効果の増大、忘れてたorz
色々推敲してみました☆